シェフ兼プロデューサーとして

大阪全日空ホテルの総料理長を務めたあと、品川のストリングスホテルの立ち上げと東京の全日空ホテルの全面改装を任されました。コンセプトを作って道筋を作ってほしいということで、レストランやバーの洋食部門を手がけました。そうしましたら、無事に売上増を果たしたのですが、ANAからインターコンチネンタルホテルズグループに運営を任せることになり、2年間務めてホテルは退職しました。その後、全日空の本体との契約で、機内食の企画などのプロデュースの一端を担っています。

そんな中、ここ「ル・ヴァンサンク」が店を閉めるつもりだということを聞きました。オーナーから相談があって、最初は新しいオーナー探しのお手伝いをしたのですが、結局私がオーナーとして引き継ぐことにしたのです。それから、設備投資をして全面的にリニューアルをしました。当時創業33年の歴史あるお店を継承し発展させたいという思いがあってのことでした。また、若い頃に描いた料理人としての原点、レストランをやりたいという夢が人生の後半で叶うことになったのは、ホテルで料理人をやってきた私にとって運命であったのかも知れません。

最近では、今年の4月に倉敷でレストラン「ヴァンサンク」をオープンさせました。倉敷は大原美術館などに象徴されるように文化的にレベルが高いところだと思います。そんな場所にイギリスの町をイメージした建物を私の姉が建て、ル・ヴァンサンクが経営をしています。このお店はカフェレストランというスタイルで、フレンチでありながら気軽にお越しいただけるようにコーヒーや朝食などもあります。まだオープンして間もないのですが、フランス料理を気軽に召し上がって頂けるレストランとして沢山のお客様にお越しいただいています。

フランスを通して見えてきた日本

私はフランスへ行って、日本で暮らしていた時は感じなかった日本人としてのアイデンティティを初めて感じたように思います。異国の文化に触れ、個性を大切にする国民性の中で生活する内に、日本はアジアの極東にあったことで、吹き寄せの文化を形成してきた「無形の文化」なのではないかと思いました。それは決して悪い意味ではなく、精妙な技術を携えながら多様的で柔軟性を持った素晴らしい文化であると思ったのです。シルクロードを西から東へ様々なものが伝わり、中国や韓国から日本へたどり着いたとき、日本人は好奇心を持ってそれらを受け入れ、限られた材料や情報の中から巧みな技術によって、日本文化に合う精巧なものを作り上げてきました。

料理においても海外の良いものを取り入れ、そこに日本のアレンジを加えて新しいものを作り出してきました。例えば、コートレットはトンカツに、オムレットはオムレツに、キュリはカレーライスに、ハッシはハヤシライスに。これらは全部フランス料理が元になっているのです。これほどまでに他国の料理に対して情熱を持って勉強するのは、日本人だけではないでしょうか。ですから、フランスへ行って料理を学び吸収できたのも、私が日本人であったからだと思います。昨今、多くの日本人が海外へ進出し、その国の文化を吸収してまた新しい文化を生み続けているように、日本人というのは本当に好奇心が強く、良い目を持った器用な民族だと思います。

これからの展望

自分が学んだ技術やノウハウはぜひ後世に伝え、同時に時代が育んだ感性を若い人達から学び続けたいと思っています。感性は若い世代が作っているものですから。伝統的なものと若い人の感性を上手くジョイントして、新しいものを作りたいですね。どちらかだけでは出来ない、クラシカル・モダンというのはそういうことだと思います。ですから、今も若いシェフたちとよく交流をしています。これからも食とは関わって行きますが、若い人達の一助になるような料理人生を送りたいと思っています。

時代の流れと共に、料理も人の料理に対する価値観も変わって行きます。その中で我々が提案するクラシカル・モダンとは、歴史を重んじながら新たな時代の息吹を取り入れて生み出す料理なのです。

■店舗情報■

ル・ヴァンサンク|大阪市中央区西心斎橋1-9-31 辻本ビル1F (2014年3月閉店)
カフェレストラン ヴァンサンク|岡山県倉敷市羽島274-1|電話086-441-9702|定休日 火曜日

2009年に新たな歴史に向かってリニューアルされた「ル・ヴァンサンク」。 趣のある木のドアを開くと、クラシックで気品のある雰囲気と洗練されたサービスに迎えられます。 これまで培って来た技術を若いシェフたちに伝えながら、今もなお新しい料理を求め、好奇心と探究心を持って厨房に立ち続ける横田オーナーシェフ。そのお話からは、料理への愛情と情熱が本当に伝わってきました。お客様の中には著名人の方も多くいらっしゃるそうで、素晴らしいお料理に加え、楽しいお話やお人柄にファンになられる方が多いのではと感じました。 横田オーナーシェフの確かな価値観に、前衛的な要素が取り入れられたお料理の数々。「ル・ヴァンサンク」は、これからも訪れた人を幸せにするフランス料理のお店であり続けることと思います。

(2013年5月取材・文 島田優紀子)

*次回の「賢人の食と心」も是非ご期待ください。

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