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430年以上絶えることなく続いて来た理由

店には3年の修行を経て帰って来ました。それからずっと父の仕事を傍らで見ていると、こうした方が良いのにというところが出て来ます。でも、その当時は父の代ですから、父のやり方があります。父には「お前の代になったらお前の思うようにしたらええ。」と言われていたので、自分の代にしたいことを毎日の仕事をしながら考えていました。もちろん、守らねばならないものに対して、時代に合わせて変えて良い範囲というものはわかっています。

私自身、人と同じことがあまり好きではないので、今までにない要素を加えたり、違う形にしたり、自分の代になってから色んなことを変えて行きました。その変化に父は戸惑っていましたが、父も祖父のやり方を変え、私も父のやり方を変え、そうしながらまた次へと繋いで行くのだと思います。ですから、私のやり方もたぶん私の子どもは変えて行くでしょうね。 もし、その時代その時代の当主が、受け継いだことを代々変わらずそのまま同じようにしていたら、平八茶屋は400年以上も続いていなかったと思います。これまでの当主が時代の変化に従って何が最善かを考え、引き継ぐところは引き継ぎ、変えるところは変えて来たからこそ今まで続いて来たのだと思います 。

土瓶蒸し
夏の名残の鱧(ハモ)と走りの松茸、秋の香りと出汁の味わいが際立ちます。

ある時、50年ぶりに来て下さったお客様が、不思議なことをおっしゃいました。お座敷に座り、料理を召し上がって、「ここのお店は変わらんなぁ。」と。50年前と言えばもちろん当主は違いますし、料理も器も店の様子も変わっているはずです。それは、きっと時の流れの中でその人が変化して行くように、店も変化して来たから「変わらない」と感じたのではないでしょうか。その方が来て下さった50年前からずっと同じままでいたら、時代に取り残された古くさい店になって、「このお店、変わったなぁ。」と言われていたんじゃないかと思います。その「変わらんなぁ。」と言っていただける部分が、平八茶屋が400年以上続いている所以であって、自然に引き継いでいる、残していかなければならないところだと思っています。それは言葉で表現出来るものではなく、明文化されているわけでもなくて、この店のこの場所に生まれてずっと住んでいる者が、この店をどうして行くかを考えている中にあるのだと思います。

八寸
小鯛の手まり寿司、小茄子の田楽、銀杏とシメジの焼物、酢橘釜(いくらのみぞれ和え)、柿玉子。小さな虫かごを開けると、秋の月夜を思わせる味覚が盛り込まれています。

21代目の味を確立する

私の代になってから、基本の出汁をとる昆布やその煮出し方法を変えました。それは何故かというと、以前は出汁を作るときの材料の量も味も感覚で決めていたんです。そうすると、出汁はその店の味ですから、いつも作っている人でないと作れないとか、同じようにしたつもりでも今日はなんとなく薄い、濃いという誤差が出てしまうとか、そういうことがあったのです。

以前、同じ京都の料亭のご主人や、他の方々と料理の勉強会をしている中で、大学の先生を交えて昆布を煮出す実験をしてみました。その時、昆布の場合は60~65度の温度帯が1番グルタミン酸、つまりうま味が出やすいということがわかったのです。それで、今ではじっくり低めの温度でうま味を出してから沸騰直前まで温度を上げ、昆布の風味をつけるという出汁の取り方をしています。 そのように、今までレシピがなかったものを全部数値化して行きました。ですが、レシピは誤差を少なくするためのもので、それで完成というわけではありません。量り方やその時の食材による違いもありますから、味をみながら調整し、最終的には自分が味を決める。これは欠いてはならないことだと思います。

麦飯とろろ汁、香物
創業当初からの名物。つくね芋を秘伝の出汁でのばし、白味噌などで調えたとろろ汁と、麦飯との相性は抜群。香り豊かな青海苔が、さらに風味を引き立てます。 また柴漬けは、洛北・大原の名物です。

平八茶屋の名物の一つに「麦飯とろろ汁」があるのですが、こちらも父のときとはお米を変えました。私自身がうちの麦飯を食べていて、麦の粒の食感とコシヒカリのもちっとしたやわらかさに違和感を覚えたんです。 父はその時代で一番良い食材を使うという考え方でした。ですが、私は食感と食味のバランスを考えたんです。それで、様々な品種の米を食べ比べて麦の食感に近い朝日米にいきつきました。朝日米と麦を一緒に炊いたご飯に、とろろを入れるとすっと馴染み、それぞれの食感を残しながらもバランスがとれるのです。朝日米は現在岡山県で作られている品種ですが、元々は京都で作られていたお米が原種であることを知ったときには、何か縁のようなものを感じましたね。

このように、以前とはやり方を変えても、私が作る料理は変わらない日本の伝統料理であり、平八茶屋の料理なのです。だからこそお客様には代々受け継いで来た「平八茶屋の味」というものを感じて頂けるのだと思います。これが、先ほど言った平八茶屋の「変わらない」部分なのだと思います。

■店舗情報■
山ばな 平八茶屋|京都府京都市左京区山端川岸町8-1|電話075-781-5008|水曜休|http://www.heihachi.co.jp/

長い歴史を持つ平八茶屋は、伝統をただ“守る”のではなく、良いものをより良くするために“変える”ことで、常にその時代に合ったお店であり続けて来ました。ご主人の思いを伺って、平八茶屋がどの時代の人にも愛されるお店である理由がわかったような気がしました。 そして、ご自身のお店のことだけではなく、日本の食文化そのものを未来に継承して行くために21代目ご主人は様々な活動をされています。後編は、その活動についてお伺いします。

(2013年9月取材・文 島田優紀子)

(後編へつづく)

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