トップ > 賢人の食と心 > 園部 晋吾 様(後編)

430年以上絶えることなく続いて来た理由

私が子ども達に一番伝えたいことは、「生きる力」です。 現代の子ども達は、例えば食べ物の消費期限を表示された日付で食べるか捨てるか判断します。そうではなく、自分で食べ物の状態を見て、その良し悪しやどうなったら食べられないかを判断する力を 持ってもらいたいのです。 自分が食べる物を自分で判断して食べるということは、生きて行くために必要な能力であり、本来の生きる力であると思います。私たちが行なっている「味覚教育」の根底にはそのような思いがあるのです。

最初の授業では、味はどこでわかりますか、どこで感じますか、という話をします。そして、人間が舌で感じる味はたった5つ、塩味、甘味、酸味、苦味、うま味であることを話します。しかし、舌にはこの5つの受容体しかありませんが、食べ物の味はそれだけで説明できるわけではありません。

例えば、椎茸の味を表現するには「椎茸の味」なのです。鼻を通る香りや口に広がる風味、椎茸自体の見た目。味覚は記憶の蓄積ですから、幼い頃から食べていたものが基準となるのです。 授業では、まず子ども達に何も言わずに昆布の出汁を配ります。それで何の出汁かを当ててもらう事からスタートするのです。子ども達は初めじっくり見て、匂いを嗅ぎます。そして、海草のような匂いがすると、口に含んで昆布の味がすると言います。たったこれだけの事ですが、結局はその過程が大事だということなのです。何か食べ物を判別するときに、見る、嗅ぐ、味わってみるという動作が必要だということを教えています。

他には、昆布がどこにどのようにして生えているか写真を見せたり、昆布の生産過程を映像で見せたり、教科によって様々な説明をしています。また、別の料理人の授業では生きた車えびの頭をちぎって、剥いてお刺身にし、子ども達に見せる場合もあります。 子ども達が「可哀そう」と言うと、牛や豚も同じようにしてお店に並んでいることや、動物だけでなく、すべての食材に命が宿っていることを話し、だからこそ「いただきます」と感謝をして食べることが大切だと話します。 残酷なことでも、実際に見てもらうことで本質を知ってもらう。そして、食べ物が食卓に並ぶまでには、食材を作る人、生産地から運ぶ人、お金を出して買ってくれる人、料理してくれる人、そんな多くの人がいるからこそ食べられるのだということをしっかり伝えていかないと、感謝の気持ちが薄れてしまうと思うのです。

このように、味覚教育、食材教育、料理教育という三本柱に当てはめた授業が日本料理アカデミーの基本となっています。 

酢物 蟹身の菊花寄せ
蟹身の赤に鮮やかな菊の花が寄せてある、柔らかな酸味の酢物です。

21代目の味を確立する

本来、食事というのは家族でお喋りをしながら食べるということが大事だと私は思っています。栄養や塩分摂取量といった健康に気を使うこともある程度は必要なことかもしれませんが、美味しく楽しく食事をすることが何よりも大切なことだと思います。

現代は核家族化が進み、一人でご飯を食べる子どもが多くなってしまったことで、家庭で当たり前のようになされていた教育を誰かがしなければならなくなったように思います。ですから、私たちが今教えている子ども達が大人になったとき、自分の子どもや孫に今学んでいることを伝えていってくれたらという思いで活動しています。

この活動を通してもっと沢山の子どもに伝えることが出来ればいいのですが、私たちが授業に行けるのは京都市180校中、年に15校という現状です。そのため、民間から募集して、私たちの代わりに教壇に立ってくれる食育指導員を育てるという取組みも平行して行なっています。

今、このような食育の仕事に携わっていて思うのは、日本人が自国のことを知らな過ぎるのではないかということです。海外の方に自国の歴史や文化、考え方を聞くとしっかりと答えてくれる方が多いのですが、日本人は答えられる人が少ないように感じています。 もっと日本人が日本のことに対して学ぶ機会が増え、関心を持ち、そして誇りを持てるような国であればと思います。自国のことに自信を持って説明できる日本人であってほしいと思っています。

そのような思いもあって、現在はユネスコの世界無形文化遺産の登録に向けた活動を行ったり、小学校の教育委員会にはカリキュラムとして1年生から6年生まで食育の時間を作ってほしいというお願いをしたりしています。

水物 いちじく、ぶどう、オレンジ、ワインジュレ、ミント
季節の瑞々しい果物を白ワインのジュレでまとめた、華やかで爽やかなデザートです。

今、小学校の各教科には食に関することが散りばめられていますが、子どもたちの頭の中では繋がっていないと思います。 例えば、国語で大豆の登場する物語があり、社会で大豆を生産している地域が出てきて、理科では大豆の生長を観察し、家庭科で大豆の料理を作る。そうではなく、すべてを食育という時間に集約させて、食に関する一貫した流れの中で日本文化としてのおもてなしの心や作法、道徳についても6年間を通して学んでもらうということが出来ればと思っています。

日本では様々な国の料理を食べることが出来ます。給食も和洋折衷になっています。出来れば、給食の中で日本の伝統的な食事スタイルを知ってもらい、先生も給食の時間に子ども達と一緒に食べながら、色んなことを教えていけば良いのではないかと思います。 本当に残して守って行かなければならないのは、日本に古くからある地域の食文化だということを忘れてはいけないと思います。そのために、子ども達への食の教育は大変重要なことですから、これからも京都から日本全国へ、そして世界に広がるような活動を続けて行きたいと思っています。

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