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魚の棚の全盛期と転換期

正午になると、どこの魚屋も昼網と書かれた魚を並べ始めます。活きが良すぎてトレーから飛び出してしまう魚も。

現在、魚の棚西商店街振興組合の理事長を務める瀧野幹也さんは、子どものころに見た魚の棚の風景をこう語ります。

「私は昭和41年生まれですが、そのころは朝の商売が中心でとにかく毎日にぎやかでした。すぐ近くに卸売市場があった影響で、魚の棚商店街の店もまだ日が昇らない3時や4時くらいから開けてましたよ。うちは今は八百屋をやってますけど、当時は豆腐屋を営んでいて、小さいころは朝早くから手伝わされました。卸売を兼ねている店が多かったので、魚の棚に行けば鮮度のええもんが安く手に入ると、田舎の小売店や飲食店の方々が買い付けに来てました。忙しい朝を終えると、昼からは比較的ゆっくり。夕方には店を開けながらのんびりと将棋をさしている店主もいたりして、ええ時代でした」。

順調にきた商売も、1977年に卸売市場が魚の棚から離れた場所に移転すると激変。魚の棚周辺で卸売をしていた問屋の多くがそちらへと移り、朝の客足は徐々に減り、残された商店は商売の形を変えざるを得なくなりました。「このまま朝早くに店を開け続けてもお客さんは減っていくばかり。生き残るには昼間の小売を主体にしていくしかなかったんです」。幸いにも駅前という恵まれた立地や明石海峡大橋の開通が後押しし、市民の台所としての役割だけでなく、観光地としても繁栄。逆境をうまく乗り切ることができました。このころから、明石独特の昼市にも一層注目が集まるようになります。

珍しいせりのスタイル

お話をうかがったのは魚の棚西商店街振興組合の理事長を務める瀧野幹也さん。幼いころから魚の棚を見続けてきた人です。

魚の棚商店街を訪れる楽しみの一つといえば昼網の魚。明石では11時半ごろから13時、14時くらいまで市内2ヵ所で昼市が開かれ、昼網のせりが行われています。これだけでも全国的には珍しいことなのですが、さらに興味深いのがせりのスタイル。魚の棚にある魚屋の多くがせり権を持ち、直接せりに参加しているのです。

通常の流通ルートでは、全国各地の市場から仲卸業者などをいくつも介し、スーパーなどの小売店に並ぶのが一般的。しかしこの方法ではコストがかさみ値が上がるうえ、食べるころには鮮度が落ちてしまうことは言うまでもありません。一方、明石では仲卸などを通さず、水揚げされた魚がその日のうちに小売店に流れ、消費者の元へ届けられます。流通経路が最短なので鮮度と味を落とすことはありません。

けれどもこの流通スタイルはどこでもまねできるわけではなく、漁港や市場の近くに魚の棚商店街という条件の良い売り場が備わっている明石だからこそ可能だとも言えるでしょう。

人気が高い昼網の魚

昼市で競り落としたであろう鯛を店前で洗っている店主に遭遇。さすが明石の鯛。丸々と太って立派です。

昼市でせり落とされた魚はすぐさま魚の棚商店街に流れ、正午ごろになると「昼網」の札が掛けられて次々と店頭に並べられます。待ってましたと言わんばかりに買い求めるのは近所の主婦たち。店前に人だかりができているところもあります。

トレーの上でピチピチと跳ねる魚をのぞき込んでいると、「刺身にしても煮つけにしてもおいしいで。お好みで料理もしますけど、どうですか?」と声をかけられました。最近は家での調理の手間が省けるよう、下処理してくれる魚屋が増えたと言います。「売り手がくわえたばこで接客をしていた時代も今は昔。商売に凄みや迫力があったころは、お客さんによっぽどの度胸がないと気軽に声をかけたり値切ったりすることはできんかったね。今は店頭に立つのも女性が多くなって商売がずいぶんソフトになりましたよ。切り身などに加工して売ることも昔やったら考えられないことでしたけど、これも時代の流れやね。魚離れもあるし、サービスしていかないと売れなくなりましたから」。

時代は変わっても人気が高い昼網の魚ですが、買うときはちょっとしたポイントもあります。現在、魚の棚の魚屋で扱っている全ての魚介が昼網とは限りません。多様化するニーズに応えるため、店主が全国から確かな目利きで仕入れた魚を並べる店もあります。“明石のまえもん”が目当てなら、店頭で訪ねてから購入したほうがいいかもしれません。

(つづく)

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