みなと食堂

鯛の刺身に煮たこ、ふんわり焼きあがっただし巻き卵。じっくり煮込まれ、いい色になったおでんも捨てがたいかも。目移りしてしまうおかずが目白押しのみなと食堂は地元っ子の胃袋をがっちりつかんでいます。

明石と淡路島を結ぶジェノバライン乗り場がすぐ目の前。青いテントに真っ赤な暖簾が掛かっていたら営業中です(画像上)。冷蔵ケースには刺身や煮物、サラダ、おひたしなど、さまざまなおかずがスタンバイしています(画像下)。

楽しみ方いろいろな食堂

「うちは昔ながらのめし屋。明石の海で取れた魚を刺身にしたり煮付けにしたりして並べてるだけ。1000円まででお腹いっぱいになってもらえたらね」とにこやかに話すのは、みなと食堂のご主人。庶民的な味と雰囲気で地元の人に長く愛さ続ける一軒です。
メニューはすべて一から手作り。ごはんと味噌汁などの汁物を頼み、おかずはずらりと並ぶ中から自分の好きなものを取るスタイルが気軽で、がっつり食べるもよし、昼間から一杯ひっかけるもよしと懐の深さも魅力。刺身はご主人、奥さんが煮物、丼物などは息子さんが担当しています。
汽船乗場前で店がスタートしたのは昭和の初めごろ。ご主人のおばあさんが暖簾を掲げ、以来変わらず同じ場所で営業を続けてきました。開店は朝の7時半。一人暮らしのサラリーマンにとっては、出勤前に立ち寄ってしっかり朝食が食べられるありがたい存在です。「うちは常連さんたちの台所代わり。だからできるだけ体にええもんを出したいと思ってね。定食も魚と野菜がバランスよく取れるように考えてるよ」と奥さんは言います。

新鮮な魚介を使った料理がずらり。どの一品もごはんはもちろんお酒も進むこと間違いなしです(画像上)。明石といえばやっぱりタコ。タコは刺身、天ぷら、煮付けといろんな料理で味わうことができます(画像下)。

伝えたいのは魚のおいしさ

店の自慢は何といっても魚介の活きの良さ。「煮付けにしたメバルやタコ、鯛は“前もん”。スーパーとは比べもんにならんくらい素材はいいよ。明石の魚はシメ方が違うからね。神経じめっていう特殊な方法をしてるから鮮度が保たれて、刺身にすると1日目は歯ごたえがよく、2日目はうま味が出てくるんよ」。

名物は焼き穴子丼ぶり。香ばしい穴子を卵でとじ、ごはんの上にたっぷりと乗せたボリューム満点の一杯です。注文を受けてから焼く明石だこ入りだし巻き玉子も人気の一皿。磯の香り高いタコがゴロゴロと入っているのは明石ならでは。どちらも味の決め手となっているのは、おばあさんからレシピを受け継いだ出汁です。昆布とカツオから取り、うどんや煮物、丼ぶりにも欠かせないとか。奥さんは「混じりっけのない味やからお子さんも安心して食べてもらえます。家族連れにも来てもらえたらうれしいわ」と話します。

店内は昔懐かしい食堂の趣き。昼時をすっかり過ぎてもポツポツとお客さんたちがやってきます(画像上)。料理はどれもリーズナブル。うどんや焼きめし、豚のしょうが焼きなどもあり、腹ペコを満たす幅広いラインアップ(画像下)。

気取りのなさが心地良い

変わらない味を求めて、子どものころから足繁く通うお客さんがいる一方で、このところは観光客も増えたそう。ご主人と奥さんが「一番困る」と口をそろえるのが、一見客に店のおすすめを聞かれること。

「おすすめはどれですか?って言われても、うーん、私らは全部おすすめやと思って出してるからね。好きなもんを取って食べていってくれたらええよって答えるんやけど、最近の人はファミレスとかに慣れてるからかなぁ。皿を前にしてどうしたらいいか迷っている人が多いわ。だからうちも定食を始めて、お客さんがさっと注文できるようにしたんやけどね」。

ご主人と奥さんの素朴で飾らない人柄がそのまま味に出ていて、通いつめたくなる魅力が満載です。

みなと食堂のおすすめ

焼き穴子丼ぶり

この丼ぶりを目当てに訪れるお客さんもいる名物。ふっくらとした穴子とごはんに出汁が染み込んで箸が止まらない。

明石だこ入りだし巻き玉子

焼き立てのだし巻き玉子にたっぷりと出汁をかけた一皿。アツアツふわふわの食感が最高です。

刺身

この日のおすすめは鯛とマグロの盛り合わせ。身の引き締まった鯛は明石でしか食べられない贅沢な味。

煮たこ

こっくりといい色に煮上がったタコはやわらかでふくよかな味。明石を代表する家庭的なおかずです。

DATA:

みなと食堂

兵庫県明石市本町1丁目19-7

TEL 078-911-2681

営業時間 7:30〜19:30

定休日 火曜、第1・3月曜

みなと食堂 からのメッセージ

うちの魚を食べてもらえば、明石の魚の質の良さや魚本来のおいしさをわかってもらえると思います。いつも旬の味がそろっていますので、1人でも家族でも、気軽にお立ち寄りください。

【取材レポート】

今は静かな店の周りも、30〜40年前はずいぶんと賑わっていたそう。「うちの他にも同じようなめし屋が5軒並んでいてね。昔は釣り人のために朝の5時半には店を開けとったよ。人の流れが変わったんは明石海峡大橋ができてから。めし屋も次々に潰れてしもたね」とご主人。ポツリとこぼれた言葉に寂しさが滲んでいました。それでも元気に営業を続けるみなと食堂は、次の世代に活気をつなぐ港町の誇り。これからも末長く、明石のうまいもんをリーズナブルな価格でたくさんの人に届けてほしいものです。