whole foods kitchen credo

"体の不調は食で正す"という知恵は、昔の日本人には自然と根付いていたものでした。飽食の時代を迎え、いつしか忘れられてしまった先人たちの教え。それを取り戻そうと切磋琢磨する2人の女性に出会いました。

ホールフーズキッチン クレド
whole foods kitchen credo

兵庫県神戸市中央区熊内橋通6-3-12 078-222-7166
http://www.credoland.jp/
マクロビオティック(日本の伝統食をベースとした玄米と野菜が中心の食)の考えに基づき、「食」「学」「癒」により心身の健康をサポート。自然との調和を大切にする人を広げていくことを目指す。カフェで提供するランチは、玄米を主食とし、野菜の根や葉も無駄にせずすべて丸ごといただく「ホールフード」がベース。体に負担が大きいとされる白砂糖、動物性食材、化学調味料、乳製品は使用せず、旬の野菜や豆、雑穀、海藻など、植物性食材だけを組み合わせて調理している。また、マクロビオティックの料理教室や陰陽五行論などを学ぶ講座も開講。初心者でも気軽に参加できる単発レッスンや、個人の体調や不調に合わせてプログラムを組み、改善へと導く本格的なコースもあり、わかりやすくレクチャーする。

世界中で注目される日本の伝統食

週替わりのランチセットをかわいいイラストで説明

海外の著名人やスーパースターが美容と健康に良いと、こぞって実践したことで世界的に広がりをみせたマクロビオティック。しかしその発祥が日本であることは、あまり知られていないかもしれません。

マクロビオティックは、玄米と野菜を主役とした日本古来の伝統食。いわゆる"粗食"が軸となった食養生です。今ほど医学や薬の進歩が目覚ましくなかったころ、人は食を頼り工夫することで、健康を保ったり病気や不調を改善したりしてきました。そうした先人からの豊かな知恵を受け継ぎ、食養生のすばらしさを広めていきたいと話すのは、神戸市でマクロビオティックカフェと料理教室・講座「whole foods kitchen credo」を営む2人。オーナーシェフである谷尚子さんと癒食カウンセラーの米澤万由美さんは、共に深刻な体調不良を、マクロビオティックを学び実践することで乗り越えた経験を持ちます。

マクロビオティックに助けられた経験から

「会社員時代は月の半分が出張。激務に加えて3食が外食で、持病のアトピーもひどくなり、体調を崩してしまって。自分の感情の起伏の激しさにも自分でついていけなくなっていました」と辛かった過去を振り返る谷さん。 そこで見直したのが食べ物。体調を整えようと始めたのがマクロビオティックでした。「最初は自分のためだったのが、同じものを食べている家族の体調もだんだん良くなっていって、これはすごいなと実感しました」。

米澤さんは元看護師。「20代前半の私は、仕事のストレスや夜勤などの不規則な生活で、暴飲暴食の毎日でした。月経前後の体重が、5キロほど増減するのは当たり前。1年間で30キロ太ったこともあります。月経不順もひどいし、不眠症で薬も飲んでいました」。イライラすることもしょっちゅうで、気性の荒さはまるで肉食獣だったと笑います。

そんな自分自身に手を焼いていた米澤さん。気軽な思いで始めたのが "なんちゃってマクロビ"でした。「肉は食べるし外食もするけれど、普段の食べ物や食べ方に気をつけたり、マクロビオティックで万能ドリンクと言われる梅醤番茶を飲んだりしたりしているうちに、少しずつ体重が元に戻って、不眠症やイライラからも解放されました」。

そんな2人を結びつけたのが、共に通っていた大阪のマクロビオティック学校。マクロビオティックカフェをしたいと思った谷さんが米澤さんに声をかけ、兵庫県三木市にある谷さんの自宅の一角を間借りする形で「whole foods kitchen credo」はスタートしました。


お客さんの不調や悩みに寄り添い癒す

昔から料理が得意で大好きだという谷さん。
食材は余すところなく使い切る

自然豊かな風景がほっと心を和ませる三木市で、3年前にオープンしたwhole foods kitchen credo。完全予約制で始めたランチとディナーは「食べるヒーリングコース」と題し、月の満ち欠けの周期に合わせたその日だけのメニューや、事前に体質や悩みの聞き取りを行ったうえで体調に合わせたオーダーメイドのコースを準備。食生活のアドバイスやカウンセリングも行うなど、お客さん一人一人に寄り添うスタイルが評判を呼び、いつしか市外からも予約が入るように。

「最初のころは、地元のおじいちゃんおばあちゃんたちが、近くにお店ができたからと来てくださっていました。でも『これが味噌汁?』と味の薄さにびっくりされることもありました。それでも何度か召し上がっていただくと『野菜の味がする味噌汁ってこういうことね』と理解してもらえて。マクロビオティック食をたまに食べるだけでも、考え方や舌に変化が生まれるのはおもしろいと思いましたよ」と目を細める谷さん。

今年の5月からは念願だった神戸の地に移転オープンし、再始動。カフェの献立と調理、料理教室の講師は谷さん、スイーツ作りと食事指導や講座の講義は米澤さんが担当し、それぞれの得意分野に磨きをかけて、新たな挑戦が始まります。

心も体も解きほぐすナチュラルランチ

現在は予約なしでもランチやお弁当、スイーツなどをいただける気軽なスタイルに。トレーいっぱいに運ばれてきた週替わりランチ「玄米と有機野菜ごはん」は、揚げ物あり、焼き物あり、煮物ありでボリューム満点。1食あたり20種類は使うという有機野菜の彩りもカラフルで食欲をそそられます。野菜が中心だと単調になりがちな味付けにも、手間を惜しまずひと工夫。素材本来の味を引き出すように、自然由来の調味料で甘み、塩味、酸味、苦み、旨みのバランスを取りながら五感を刺激。噛みしめるたびに滋味深さがあふれてきます。

玄米と野菜が主役のランチ。
玄米は大地の栄養を吸収した不耕起栽培のもの

「体に良いものを食べていると意識しながら口にするのと、ただ漠然と食べるのとでは体内での栄養素の吸収が変わってくると思います。この"意識すること"が思いのほか大事。気持ちがないとマクロビオティックを実践してもなかなか効果が出ません」と谷さんからのアドバイス。

早い人なら1週間くらいでデトックスが始まり、その変化は起こり続けるそう。デトックスの方法は人それぞれで、尿、便、汗、呼吸で排出されることが大半。デトックスがスムーズに進むと、ダイエットに成功したり、性格が前向きになったり、肌がきれいになったり。個人差はありますが、多くの人がうれしい変化を実感できるようになるそうです。さまざまなデトックスを目の当たりにしてきた米澤さんは「湿疹やかゆみを伴ったり、わけのわからない感情がこみ上げて泣いたりわめいたりする人もいますが、これもデトックスの一種。ヨガやウォーキングなどの運動を日課としている人は、反応が早いという印象があります」と十人十色の変化を語ります。

表面的な毒素は体外に出やすく、体の奥のほうに長年溜まっていたような毒素は数年経ってようやく排出されることも。マクロビオティック歴10年の谷さんと7年の米澤さんもまだ変化の途中。日々変わり続ける自分の心身を楽しみながら観察しているそうです。


マクロビオティックは何を食べても大丈夫!?

かぼちゃと木綿豆腐をオムレツ風に見立てた
おかずは、低血糖症予防に

マクロビオティックと言うと、動物性のものやお酒は一切口にしないストイックな食事制限というイメージが強い人も多いのでは。しかし、谷さんも米澤さんもお酒が大好きで、谷さんの楽しみはというと、満面の笑みで「家族との晩酌」。たまの外食では白米も食べるし、白砂糖や生クリームたっぷりのスイーツに手が伸びることもあるそう。
「実は食べてはいけないものなんてないんですよ」と口をそろえる2人。谷さんと米澤さんの生活を垣間見ると、どうやら世間で知られているマクロビオティックには大きな誤解があるようです。

マクロビオティックで提唱しているのは、食べ物の特性を知った上での食べ方や食べ合わせを工夫する方法。たとえば、ワインや日本酒、ビールそれぞれにベストな組み合わせの食材や料理があり、食事時に気を付ければ体への負担を軽くできると言います。また、乳製品や白砂糖の入ったものを食べたとしても「お手当ドリンク」や「お手当食」でケアできるそう。
東洋医学の考えに基づくと、食べ物は陰性のものと陽性のものに分かれていて、陰性は体を冷やし、血管を緩めるような食べ物(白米や菓子パン、コーヒーやバナナなど)、陽性は体を温め、血管を締めるような食べ物(にんじんやかぼちゃ、玉ねぎ、ほうじ茶など)と言われています。

健やかな心身を保つためには、その日の体の状態や気候と相談しながら陰性と陽性の食べ物をバランス良く摂取し、過不足がない調和が取れている状態を保つことが理想。「現代は陰性の食べ物が多く、また好まれがちですが、陰性のものを食べすぎるとイライラしたり怠惰になったりします。こうした食べ物と心身の関係性を知って、自分の今の状態を客観的に観察し、対処していこうというのがマクロビオティックの一考です」と米澤さん。
米澤さんは、食べ物による自分の変化を熟知しています。「カフェでスイーツを食べた2時間後には血糖値が下がり、必ずイライラし始めるのです。それもわかっていて食べるのですが(笑)。でもそういうサイクルを知っているのと知らないのとでは大違い。知っていれば、誰かと出掛けるときは甘いものを食べるのは控ようとか調整することもできますよね」。

心身の健康状態は体の一部が物語る

テーブルに置いた小さな看板で望診をアナウンス

顔色や肌質を診れば、その人が陰性体質か陽性体質かがわかるという2人。お客さんには、希望があれば問診表に記入してもらい、サービスで「望診(ぼうしん)」も実施。その結果に基づき、簡単に健康や食事のアドバイスを行っています。
望診とは、顔や手、爪など体の一部を診て診察すること。米澤さんによれば、たとえば手を診ると手のひらの色や爪から情報を読み取ることができると言います。「手のひらの状態というのは一人一人違っていて、赤い人は飲酒を好み、毛細血管が拡張してむくんだり血流が滞ったりしやすいタイプ。白い人は貧血気味です。

望診を希望する人は問診表に記入。
控えたい食べ物やオススメ食材などもアドバイス

爪は体調の日記帳と言われていて、過去や現在の心身の状態を記録してくれているのです。半年から9カ月ほどかけて生え変わるので、根元は2カ月くらい前、先端は半年から9カ月ほど前の心身の状態を示してくれています」。横のへこみが多ければ砂糖の取りすぎ、白い斑点が現れていると乳製品の取りすぎというサイン。「環境の変化や疲れが出たときも白い斑点が見られます。指の腹に縦の筋が入っていれば、これは塩分の取りすぎだったりするのです」。
知らないうちに、いろいろな警告を送ってくれている私たちの体。耳を澄ませて聞くことが、自分の健康を守る一歩につながります。


多くの不調の原因は低血糖症にあり

カウンターと2人掛けのテーブルが並ぶ
こぢんまりとした店内

谷さんと米澤さんの元には日々、あらゆる病気や体調不良に悩む人たちが訪れます。訴えは人によって異なりますが、そのほぼ全員に共通するのが低血糖症(安定した血糖をコントロールできない状態)。谷さんはその現状を憂います。
「今は栄養医学の面でも低血糖症が注目され、炭水化物抜きや糖質制限をした食事が脚光を浴びています。体調不良や精神的な問題の根っこには、低血糖症があると言ってもいいほど。肝臓病の人でも婦人病の人でも、まずはこの低血糖症を治していかないと病気は治らないのではと言われています」。

低血糖症を治すことは胃腸を正常な状態に戻すということ。胃腸が健康でなければ、どんなに効き目の高い薬や高価なサプリメントを服用しても、効果が十分に発揮されないまま体外へ排出されてしまいます。「食事によって胃腸を温めてお通じを整えれば、薬もきちんと吸収し効果を発揮してくれます。薬の効きが良くなると、病気の治りも早くなり、薬を手放して正しい食事だけで良い状態をキープしていくことだって可能かもしれない」と理想を語る米澤さん。看護師として深刻な病に苦しむ患者さんをケアしてきた米澤さんだからこそ、自然と湧いてきた強い願いなのかもしれません。

自然治癒力を最大限に引き出すために

マクロビオティックによって健やかな心身を取り戻した人と、喜びを分かち合ってきた谷さんと米澤さん。中でも印象深かったという、料理教室の生徒さんとの間に生まれたうれしいエピソードを教えてくれました。

「旦那さんの肝機能が徐々に悪くなっているのでどうにかしたいという奥さんが、うちの料理教室を受講されているのですが、半年くらい習われていたある日、旦那さんの健康診断の結果がDランクからすべてAランクになったと報告してくださいました。その人は食生活をいきなりガラリと変えるわけではなく、最初は少しずつ改善していくように指導しました。朝はパン食でコーヒーだけだったのをごはんと薄味の味噌汁に、お昼は外食、夜は干物やから揚げなど味の濃いものをやめてムニエルとか蒸し魚に変えたくらい。すると夜食に食べていたカップラーメンを、旦那さんがいらないというようになったらしいです」。

マクロビオティックは何も特別なことではないと語気を強める谷さん。「日本人が昔から自然と食生活に取り入れていたこと。焼酎に梅干しを入れて飲むとか、寿司を食べたときに熱いお茶を飲むとか。これらは現代人も何気なくやっている食べ合わせですが、すべて毒素を消すという意味合いを持っています。私たちが伝えていきたいのは、環境や体調によってごく当たり前のように自分で食べるものを選び抜ける力。それを1人でも多くの人に理解してもらえたらうれしいですね」。

人間に備わった本来の感覚や自然治癒力は、薬よりも勝る。マクロビオティックは私たちが失いかけた大切なことを静かに教えてくれています。

(2014年6月 取材・文 岸本 恭児)