farm&company

毎日、私たちが何気なく口にしているさまざまな食材たち。その一つ一つが安全においしく育ち食卓へと届けられるのは、生産者たちの努力の賜物です。当たり前のことでありながら、なかなか目を向けにくい食材の生まれる裏側にスポットライトを当て、思いを届ける活動を行っているのが「farm&company」です。

farm&company(ファームアンドカンパニー)

「嬉しい、楽しい、美味しいにつながる食卓」をコンセプトに事業を展開。レストラン「野菜ビストロ レギューム」の運営、マルシェの企画、情報誌の発行、商品開発、農業体験等を通じて、丹精こめて作られた地元兵庫県産の有機野菜や、それらを使った料理・加工食品を提供。生産者と顔の見える関係づくりに取り組む。また、これらの事業を発展させ野菜の提供量を増やすことで、新規就農者を中心とした次世代の農業者の自立経営をサポートすると共に、地域の畑や土を守ることにも貢献している。

兵庫県西宮市高松町5-39 なでしこビル8F
0798-42-8930 https://farm-c.jp/

野菜ビストロ レギューム - http://legumes.jp

シェアマル - http://share-maru.com

兵庫食べる通信 - http://taberu.me/hyogo/

“ローカル&オーガニック”がコンセプト

外光が差し込む「野菜ビストロ レギューム」の店内。ソファが配され、ゆったりくつろげる雰囲気です。

関西の住みたい街ランキングで上位に輝く西宮北口。居心地の良いカフェや大型商業施設があり、閑静な中にもほどよく賑わいのある魅力に満ちたエリアです。阪急西宮北口駅からすぐの場所にある「野菜ビストロ レギューム」は、しっとりとした街並みに溶け込む大人の女性に人気のレストラン。ビルの最上階という絶好のロケーションを生かし、大きく切り取られた窓の外には、オリーブの木々が風にそよぐ屋上ガーデンが広がります。ランチ時にはトップライトから陽の光がやさしく差し込み、ディナータイムはライトアップされたガーデンがムーディーな雰囲気。街中に居ながらも自然を感じられ、気の置けない仲間や大切な人ととっておきの時間を過ごすことができます。

レギュームとは、フランス語で野菜の意。コースやアラカルトを彩る野菜たちは、はっとするほどみずみずしく色鮮やか。口内に広がる野趣あふれる香りと濃密な味わいからは、大地が育んだ力強さが伝わります。

野菜のうま味を引き出す看板料理

看板メニューのストウブ料理。素材の良さが生きるよう調味料も厳選しています。(画像上)。ハンバーグには西脇市から届くブランド牛「黒田庄和牛」を贅沢に使っています(画像下)。

シェフ渾身の料理はフレンチがベースです。とはいえ、クラシカルで堅苦しいものではなく、素材の個性を捉え、程よくアレンジを施した現代風。箸でも食べられるビストロ的なカジュアルさが売りです。使用している食材は「地産地消」や「有機野菜」がキーワード。ナチュラルでエネルギーに満ちたものが中心です。

「山も海もそばにある兵庫県は、野菜だけでなく旬の魚が豊富に獲れ、神戸牛などのブランド肉も数々あり、上質な食材が手軽に手に入りやすいところ。でも地元のすばらしい食材は意外にも知られていないことが多いので、私たちが見つけた味をまずは地元の人に味わってもらい、兵庫の魅力を再発見していただきたいと思っています」とレストランのコンセプトを話すのは、代表の光岡大介さんです。

同店を語る上で欠かすことができない味が、ストウブを使った料理。オープン当初から人気が衰えない看板メニューです。ストウブとはフランスのアルザス地方で生まれた鋳物ホーロー製のココット鍋のこと。素材のうま味を凝縮させる優れた機能を持っています。旬の野菜やハーブを調味料などと一緒にストウブの中に入れ、オーブンでじっくり熱を通すと、素材本来が持つ風味がぐっと引き出されます。ふたを開けると湯気と共に蒸し煮にした野菜の香りがふわりと立ちのぼり、シンプルながら奥深い味わい。新鮮で質の良い食材を使っているからこそ提供できる自慢の一品です。


食材の魅力を深く掘り下げる

日々農家の方々と交流を深めている光岡さん(右)。触れ合いを通して自身の考え方にも大きな変化があったと言います(画像上)。『兵庫食べる通信』では、編集長自ら現場に出かけて生産者に取材。「取材先では毎回発見がある」と言う光岡さん(画像下)。

長年、数多くの生産者と一緒に仕事をしてきたという光岡さん。一人でも多くの消費者に満足してもらえるものを届けたいと尽力する、彼らのひたむきな姿勢に感銘を受けてきました。その一方で、努力の対価が低すぎたり、がんばっても報われにくかったりする状況にジレンマを感じ、積極的に支援していきたいと一念発起。2011年に立ち上げたのが「farm&company(ファームアンドカンパニー)」です。同社はレストラン経営を行うだけでなく、食べる人と生産者をつなぐことを目的に、さまざまな事業を展開しています。

その大きな柱の一つとなっているのが、2015年に創刊した『兵庫食べる通信』です。『食べる通信』とは、食の魅力を伝える情報誌と生産者が丹精込めて作った食材が一緒に届く宅配サービス。

2013年に創刊した『東北食べる通信』を皮切りに、北海道、東北、京都、広島など、現在国内外で41誌を刊行しています。こだわりの食材を育む生産者を発掘するのは、各地域に根ざすクリエイターたち。一般に広く流通していないような貴重な食材も購入できるとあって、“本物の食”を求める人たちに厚く支持されています。

『兵庫食べる通信』は年に4回発行。兵庫育ちの食べ物の魅力を伝えるだけでなく、生産者の人物像にも焦点を当てているのが特徴です。ページをめくると目に飛び込んでくるのは、作業に取り組む生産者たちのイキイキとした表情。丁寧に紡がれたストーリーにも惹きつけられ、食べるだけでは知り得ない作り手の苦労や思いも知ることができ、読者の共感を呼んでいます。

生産者の人柄が味に出る

時には農業高校を訪れ、将来の食卓を支える若者たちにインタビュー。イキイキと作業に取り組む横顔に迫ります(画像上)。参加者から反響の大きい農業体験。作物が育つ現場には大地のエネルギーが宿り、命のつながりを感じることができます(画像下)。

光岡さんは創刊時から『兵庫食べる通信』の編集長を務めてきました。時にはカメラマンやライターと共に産地へと足を運び、食材が生まれる現場を取材しています。兵庫県立播磨農業高校を訪問し、地鶏復活プロジェクトについてレポートしたときは、高校生たちが目をキラキラさせてひな鳥から一生懸命に育てている様子を見て感動したそうです。

取材のたびに光岡さんが興味深いと感じるのは生産者の人柄。個性豊かな人たちとの出会いに刺激を受け、仕事ぶりや言葉に胸を揺さぶられると言います。また取材を通してわかったのは、食材の中でも特に野菜には生産者のキャラクターが味に表れやすいということ。自分と同じように消費者にも生産者たちと出会うことでおいしさの本質を知ってもらいたいと考え、産地を訪ねるファームツアーや農業体験を主催しています。いつも食べている野菜の畑を訪問して実際に作っている人と話をしたり畑の様子を垣間見たりすると、食材をより身近に感じることができると参加者からは好評です。また、誌面連動型の食イベントを開催したり、地元のホテルと連携しオリジナルメニューも立案。あらゆる角度から食を盛り上げ、生産者と食べる人をつなげることに力を注いでいます。


新タイプのマルシェを提案

シェアマル開催時には、取れたてのフレッシュな野菜が並びます。購入する先が決まっていることで生産者らも安心。

生産者支援の一環として光岡さんが新たに始めたのが、フランスのフードアセンブリー制度をモデルにした事前予約の共同購入型マルシェ「シェアマル」です。ヨーロッパのマルシェ文化が日本にも取り入れられて久しいですが、お客さんたちはブースを回って欲しいものを買うというのが一般的。しかしシェアマルは、それとは一線を画す斬新なスタイルです。

シェアマルの利用希望者はまず専用サイトでメンバー登録をします。開催日が決まると、生産者らがシェアマルの専用サイト上に出品する食材をアップ。メンバー登録した人たちには開催案内がメール通知されます。利用者はオンラインで欲しいものをチェックし予約した上で決済。商品は当日、開催場所に並んでいますが、すでに買い手が確定しているのが従来のマルシェとは大きく異なる点です。「レギューム」の仕入れ先である農家に出店してもらうことが多いので品質も確か。安心して購入することができます。

「今、日本で開催されているマルシェは、生産者にとっていくつかデメリットがあるのが実情で、出店を敬遠する人もいます。販路拡大を狙うタイミングなら良いPRの場になりますが、わざわざ出店料を支払い、時間をかけて準備をしても、客足が悪くて商品が売れ残ってしまうケースも少なくありません。手間をかけても思うような売り上げにはつながらないことがあるのです。シェアマルなら効率が良くロスが出ず、生産者たちの不満を解消することができます」。

シェアマルを通しての交流

シェアマルでは体にやさしいナチュラルなお菓子も登場。女性や子供たちに人気です。

シェアマルは消費者側にもさまざまなメリットがあります。まず、予約販売制なので欲しい商品を買いそびれることがありません。オープンは14時からとゆったり。主婦なら家事がひと段落した時間に出かけられ、21時までと夜遅くまで開いているため仕事帰りに立ち寄ることもできて便利です。もちろん、予約をしていなくても当日に買える野菜やスイーツ、カフェコーナーなどもあり、マルシェを訪れる楽しみも広がります。

また、会員制というシステムの特性も手伝って、利用者間で顔を合わせる機会が増えると自然と輪ができ、コミュニティーが生まれることも魅力の一つです。
「利用者の中には料理の先生など食のプロも多く、買った野菜の食べ方や調理方法などの情報交換も盛んに行われています」。

今のところシェアマルはまだテスト段階で、毎月1回レストランの定休日をマルシェの場として開放しています。今後は隔週に拡大し、利用者数も増やしていきたいと光岡さんは意気込みます。


生産者に学ぶ生き方

光岡さんは同じ食材でも生産者の人柄によって味に個性が生まれると言います。キャラクターを知ることもまた食材を知ることにつながります。

光岡さんは多くの生産者たちと触れ合うなかで、その生き方から多くのことを学んできました。なかでも強く影響を受けるというのは、目を輝かせて仕事に取り組む姿です。

「私は人がイキイキと生きていくためには何が必要かということを長く模索してきましたが、ヒントは生産者の生き方の中にあるように思います。人間の命のルーツは食べ物にあり、食べ物は人の命と密接に関わっています。生産者たちは毎日命が生み出される現場にいて、まいた種が花を咲かせて実を結んで、そこからまた種が生まれる命のめぐりのすぐそばにいる。自分の思い通りにならない自然を相手にし、寄り添いながら生きている人たちには、食べ物と人の命のあり方をしっかりと理解し、強さとやさしさが宿っているなと感じます。地に足をつけてしっかりルーツとつながっていることが人間らしさを育み、イキイキとした表情に結びついているのではないかと。便利だけれど人工的なものに囲まれた都会の生活と、不便な田舎で土に触れる日常ではどちらが本質的に豊かなのか。生産者たちの背中を見ていると、自問自答することは多いですね」。

おいしさの先にある思い

生産者と食べる人との距離が遠いという現状にも、光岡さんは日々思いを巡らせています。食べる人の食への関心を高め、生産者との関係性を近いものにしていくためには、何かしらの“きっかけ”が必要だというのが光岡さんの持論です。

「農家の人に出会って話をしたとか、作物が実っている畑に行ったとか、何気なく口にした野菜の味に感動したとか。“きっかけ”は何でも構いません。先日シェアマルに来ていた野菜嫌いの男の子が、お母さんが買ったキュウリをその場で丸かじりしているのを見たのですが、それも男の子にとって一つの“きっかけ”でしょう。誰にでもこうした“きっかけ”があれば、食に対する捉え方が変わったり、生産者にも関心を持てたりするようになると思います。そして “きっかけ”の先には、きっと気づきや発見があるはず。生産者や食材に対して自然と感謝の心が生まれ、おいしさも倍増します。私たちが取り組んでいるさまざまな事業は、あくまできっかけづくりなのです。レストラン、シェアマル、食べる通信、農業体験などを通して、食べる人が自ら“きっかけ”を見出してもらえたらという思いが強くあります」。

生産者も消費者と結びつくきっかけがあれば、自分たちが育てた野菜の行く末を知ることができ、毎日の農作業の励みにもなるでしょう。
今後もさまざまな視点から「つくる人」と「食べる人」を支えていきたいという光岡さん。臆せずチャレンジを続けていきます。

(2019年8月 取材・文 岸本 恭児)