いなり家こんこん
雛人形で有名な大阪・松屋町筋沿いに、料理家の卜部良恵先生が気軽に食べられる「和のファストフード」として始めた、いなり専門店「いなり家こんこん」はあります。格子戸の入り口には可愛い暖簾と行灯形の看板。まるでおばあちゃん家に来たような、ほっこり和みのある佇まい。そこで切り盛りするのは卜部先生のおかあさんと同年代の女性たち。
今回は、懐かしい雰囲気が漂ういなり専門店をご紹介します。
【卜部吉恵先生のご紹介】
徳島大学医学部卒業、管理栄養士の資格を持つ。平成4年、大阪・心斎橋で和風創作料理の店を開き、女性スタッフのみの細やかなもてなしが話題を呼び、一躍人気店に。『料理の鉄人』では中華の鉄人・陳建一氏と対決し注目を集める。現在、心斎橋の『和旬 撫子』『となりの撫子』、松屋町のいなり寿し専門店『いなり家こんこん』のオーナー。大学や料理教室の講師として活躍する一方、二児の母として子育てに奮闘中。
(卜部先生からのメッセージ)
食習慣や家族構成が変わり、昔のような一家団らんが少なくなっている今、子どもの健やかな成長を支える"お袋の味"が見直されています。「味」「栄養価」ともに優れた昔ながらの日本食を大切に、旬を大切にして行くことが、体と心の健康につながって行くと思います。「和旬 撫子」でも、子供たちが一番よろこぶ料理は、実は「白おむすび」なんです。昔は食べていた「懐かしい味」が懐かしく感じず、「いつもの味」になるように、これからも日本食の良さを伝えていきたいと思っています。
いなり定食のおいなりさん。
全部違う具が乗っています。
いなり家こんこんのいなり寿しは俵型で、逆さにした酢飯の上に丁寧に味付けされた旬の具材がキレイに盛り付けられています。寿し飯にゴマの基本いなりの他に、旬の素材を使った変わりいなりを季節ごとに出しているそうです。今日の具は、しめじ、きぬさや、レンコン、枝豆、エビ、ごぼうに錦糸卵。他に、カニ、ウナギ、タコ、ちりめん山椒、椎茸、みょうが、タケノコなどもあるそうですよ。また、店内に入ったときからほんのりお酢の香りがしていたのですが、寿し酢も毎日朝から合わせて、揚げも甘く煮て、出すものは全て1から手作りしているそうです。
お客さんとお話するのが楽しいというおばあちゃん。
いなり家こんこんは大きな看板もなく、格子戸の扉から中が見えないため、一見何屋さんかわからない外観です。でも、お客さんは入れ替わり立ち代りやって来ては、おばあちゃんとにこにこお話をしながら食事をしたり、いなり寿しをお持ち帰りで買って行ったり。お一人で来られるお客さんも多いらしく、お土産を頂くこともあるんだとか。それは、お店のいなり寿しを食べに行くという感じではなく、「おばあちゃん家においなりさんを食べに行く。」という感覚なのかも知れません。
「いなり寿し」のことを「お稲荷さん」と呼ぶことがありますが、この「お稲荷さん」とは日本の神の一つである「稲荷神(稲成り=お米が出来ることを司る神様)」のことを指します。稲荷神の遣いである狐の好物が油揚げと言われていたため、江戸時代から稲荷神社には油揚げをお供えしていました。そこから、油揚げを使った寿しのことを全般に「いなり寿し」と呼ぶようになったという説があります。
また、稲荷神に供える物具として、「米俵」を象徴した形の寿しが「稲荷寿司」と呼ばれるようになった説もあります。発祥の地は諸説ありますが、愛知県豊川市にある豊川稲荷の門前町と言われています。
外観
懐かしい雰囲気が漂う格子戸の入り口。いなり寿しは1つ60円から。ランチメニューは、いなり定食、ちらし定食、おでん定食の3種類で、すべて650円。
店内
お酢の良い香りがする店内は、カウンター席とテーブル席が4つ。木のテーブルとイスもどこか懐かしさを感じさせます。
お持ち帰り用の折り詰め
いなり寿しも地域によって形が違い、関東では米俵を模して四角に、関西では狐の耳を模して三角に仕上げることが多いようです。いなり家こんこんのいなり寿しは、俵型を逆さにして具を乗せています。
いなり定食
いなり定食は、いなり4個の他にダシの効いたおうどんに、サラダ、おでんに、食後のコーヒーまでついています。日によっては別のサイドメニューが出て来ることも。
DATA:
店舗情報 いなり専門店 いなり家こんこん
大阪府大阪市中央区瓦屋町1-11-6 1階
TEL 06-6761-5251
営業時間 11:00~17:00
定休日 日曜日・祝祭日
URL http://www.washunnadeshiko.com/tempo3.php
(2012年11月.現在)
いなりの具材は、その日の分だけを朝からていねいに味付けして、酢飯も調味料を合わせて一から作っています。 お昼のメニューは3種類だけですが、季節の素材を使って色とりどりのいなり寿しをお出ししています。 お一人でも気軽にお入りいただける店内ですので、ゆっくり食べに、お話をしにいらしてください。お待ちしています。
【取材レポート】
お店の前で車を降りようとしたとき、店内からおばあちゃんと小さいお子さんをお連れのお母さんが出て来て談笑されていました。その間にもお店の前を通る人々がおばあちゃんに挨拶をして通り過ぎて行く光景を見て、何だかほっこりした取材担当者。店内では取材を兼ねて「いなり定食」を頂いたのですが、その間も「暑かったでしょう。ゆっくりしてってねー。」「それで足りる~?まだあるよー。」と気遣ってくれるおばあちゃん。お酢の優しい酸味とお揚げの甘みが口いっぱいに広がる、どこか懐かしい味のいなり寿司とおばあちゃんの笑顔が心に残る取材となりました。