パスタソリーゾ

店名に“笑顔のパスタ”という意味を込めた「パスタ ソリーゾ」。オープン2年目の新店でありながら、すでに食通たちには知られた農家イタリアンレストランです。評判となっているのは、イタリアの味を忠実に再現した米粉の生パスタ。一皿に込めたオーナー夫婦の思いに触れました。

青空と緑に囲まれた中に建つ「パスタ ソリーゾ」。本物の味を求めて遠方からもお客さんが訪れます。サラダなどに使われている地元の採れたて野菜は評判がよく、店内でも販売しています。

感動したマンマの味を伝えたい

「本場イタリアの生パスタの味を全国に広めていきたいと思ったんです」。そう話す店主・小川陽平さんの本職は農業。イタリア・フィレンツェにある妻・クラウディアさんの実家に身を置いていたとき、義母の手料理や美食家の義父が連れて行ってくれるレストランの味に感動。それまで深く知ることのなかった食に目覚め、現地で出会った農家の人々の素材を愛おしむ姿勢に刺激を受けたのがきっかけだと言います。

なかでも心を奪われたのは義母の作るトマトパスタ。フィレンツェがあるトスカーナ地方の料理は、オリーブオイルや旬の野菜をベースに、素材の持ち味を生かした素朴なものが主流です。義母自慢のトマトパスタも、シンプルながら代々受け継がれたレシピと家族を思う愛情が世界で一つのスペシャリテを生み出していました。

その味を店で再現するのはクラウディアさん。トマト缶やオリーブオイル、チーズはイタリアから直輸入し、卵や牛乳、野菜、豚肉などの食材は地元・兵庫の生産者と連携。可能な限りフレッシュなイタリアの味を追求しています。

パスタやソースは店内でも販売しています。

イタリア人もうなる生パスタ

同店の魅力を語るなら、やはり米粉の生パスタ。口に運んだ時のもちっとした独特のコシと歯切れの良さ、軽い味わいが特徴です。「米粉でパスタを作ろうと考えたとき、あらゆる品種を試してみたのですが、どれも茹でると溶けてしまい味もいまいち。やっと見つけたのが有名パティシエが洋菓子に用いているという特別米でした。けれども一般には流通していないので、パスタ用に育てるしかなくて。レストランのそばにある田んぼで私が栽培しているんです」。

減農薬・減化学肥料を徹底し、田植えから収穫まで自分の手で行うからこそお客さんに胸を張って提供できるという陽平さん。商品開発はイタリアで行い、本場の専門家の確かな舌で米粉とデュラム小麦を調合。生パスタの製造機器もイタリアのメーカーを渡り歩いて自社用に調整したものを輸入しました。研究を重ねたオリジナル製法で、フレッシュな粉の風味となめらかな食感をキープしています。

「イタリア人のお客さんが、ようやく日本で本物のパスタに出合えたと言ってくれたときが一番うれしかったわ」。クラウディアさんの笑顔が輝きました。

木造りで心を落ち着かせてくれる店内。外の景色とつながっているようで解放感があります。芝生の向こうに広がるのが、生パスタづくりに欠かせない特別米を栽培している田んぼ。農繁期は工房を休みにし、農作業に集中するそう。

窓の外に広がる風景もごちそう

席に着くと大きなガラス窓の向こうに広がるのは昔懐かしい里山の風景。四季折々に色を変える山や田畑は、絵画のような美しさと自然の力強さを併せ持っています。「レストランを建てるときもいろいろとこだわりました。田んぼと店との間を芝生でつないで景観を生かすよう工夫し、店内は県内産の杉の木をたっぷり使ってぬくもりを感じられるスペースにしています」。

都会暮らしだった陽平さんが縁あってこの地で農業を始めたとき、へんぴなところにしかない魅力がたくさんあると実感したそう。味や空間づくりを納得いくまで追い求めたのは、訪れる人と感動を分かち合いたいという強い思いがあったから。

「私たちが伝えたいのは、生パスタのおいしさだけではなく、日本とイタリアに息づく豊かな食文化と自然豊かなこの景色。都会の人に少しでも魅力を知ってもらえればうれしいですね」。

パスタソリーゾのおすすめ

リコッタチーズとホウレンソウのラビオリ

パスタの中にはなめらかな自家製リコッタチーズと近郊で収穫されたホウレンソウを詰め込んで。たっぷりのバターとセージの香りが引き立つ一皿です。

野菜サラダ

地元の旬の野菜をみずみずしく。オリーブオイルとホワイトビネガーにレモンを利かせたドレッシングでさっぱりと。

米粉のパスタ

タリアテッレ、トルテリーニなど、本場でおなじみの生パスタを自社工場で製造。料理法やソースによって使い分けるのがイタリア式。

DATA:

パスタソリーゾ

兵庫県姫路市山田町南山田105-3

TEL 079-263-3755

営業時間 ランチ 11:00~15:00

     喫茶 15:00〜16:00

定休日 火曜、農繁期

ホームページ http://www.p-sorriso.com/

(2017年1月 現在)

パスタソリーゾ からのメッセージ

生パスタを通して、イタリアのスローライフやスローフードの在り方をお伝えしたいと思っています。当店の料理を食べてイタリアを旅したような気分を味わっていただけるよう、真心を込めてお作りします。

【取材レポート】
取材中、小川ご夫妻の隣に座っていたお子さんたちが静かにおやつを食べていました。バリバリと勢いよくほおばっていたのは米粉のパスタを揚げたもの。「子どもたちは外で食べるパスタより、ママの作ったパスタがいいと言ってくれるの」。週末になると家族みんなで食卓を囲み、手作りのパスタを食べるのが当たり前というイタリアならではの習慣の中で育ったクラウディアさん。子どもたちにも小さいころから愛にあふれた本物の味に触れてほしいと言います。「手間をかけて作ってくれたパスタは家族にとって何よりのごちそう。私もいつもありがとうと感謝しながら食べていたの」。記者を気遣って、何度も自分のおやつを分けてくれたお子さんたち。ほんのり塩気のあるやさしい味に、母親の温かさを感じました。