ジオスゲニン
ジオスゲニンとは
「ジオスゲニン」は、ステロイドサポゲニンの一種で、性ホルモン前駆体であるDHEA※1と類似した構造を持つ、ヤマノイモまたはナガイモの根茎などに含まれる植物成分です。効率的な抽出方法の開発と共に研究が進み、滋養強壮以外に年齢からくる様々な不安要素を解消する効果や機能性が明らかになってきましたが、吸収性と生物学的利用能の低さが問題となっていました。近年その吸収性の低さを改善した原料の開発と脳機能への効果の研究が進み、「ジオスゲニン」が認知症の改善や認知機能の向上をもたらすことが発見されたことで、認知症患者の増加が社会問題となった現代において、注目が高まっている成分です。
※1 DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、男性ホルモンや女性ホルモンに変化することから若返りホルモンとも呼ばれ、体内の副腎皮質で合成されますが、年齢とともに減少するため海外ではアンチエイジング素材としてサプリメントの成分(日本では医薬品区分)ともなっています。ただ、過剰摂取によるホルモン過剰作用など副作用も報告されています。
「ジオスゲニン」と性ホルモン
「ジオスゲニン」は、DHEAの前駆体とされており、摂取することで体内のDHEA量が増加することが確認されています。ただし、DHEAを直接摂取するほど血中のDHEA量は上がらず、性ホルモンが不足していない場合は、過度に性ホルモンを上昇させないため、安全と考えられます。
アンチエイジングや生活習慣病の予防には性ホルモンの分泌を維持させておくことが有効ですが、グラフにあるように、性ホルモンは加齢とともに濃度が低下し、とくに40代を超える頃から急激に減少していきます。ホルモン低下によるバランスが崩れることで、いわゆる更年期という症状が出てまいります。筋肉を作るためにも、骨の強度を保つためにも性ホルモンは大変重要な役割を担います。必要な時に必要なホルモンに変化してくれる、DHEAの前駆体である「ジオスゲニン」は、そのような理想的な成分といえます。
卵巣摘出マウス(更年期モデル)に「ジオスゲニン」を投与することで、性ホルモンの産生が実証され、骨量も増加したことが報告されています。また、ヒト臨床試験も実施され、「ジオスゲニン」を(1.4mg)含むヤムイモを健常人の閉経女性が30日間継続して摂取したところ、性ホルモンの増加とともに、血中コレステロールの低下にも有意差が示されました。※
※ Wu WH, Liu LY, Chung CJ, Jou HJ, Wang TA. Estrogenic effect of yam ingestion in healthy postmenopausal women. J Am Coll Nutr. 2005
「ジオスゲニン」の研究報告/効果と機能性
■脂質代謝系
「ジオスゲニン」は、コレステロールの低下が複数報告されております。臨床試験の報告からも、ヒトでもコレステロール低下が期待できます。
ジネンジョ機能性成分がラットの脂質代謝に及ぼす効果, 名古屋女子大学 紀要 58(家・自):25-31 2012.
Effect of diosgenin on lipid metabolism in rats. J Lipid Res. 1979 Feb;20(2):162-74.
高コレステロール食ラットに対するヤマノイモ(Dioscorea spp.)のステロイドサポニンであるジオスゲニンの抗酸化および脂質低下作用, Biosci Biotechnol Biochem 7(12): 3063-3071
Wu WH, Liu LY, Chung CJ, Jou HJ, Wang TA. Estrogenic effect of yam ingestion in healthy postmenopausal women. J Am Coll Nutr. 2005 Aug;24(4):235-43.
食後の血中脂質に対するヤムイモおよびその含有成分ジオスゲニンの効果, 日本農芸化学会 2013 年度大会要旨集
■糖代謝系
「ジオスゲニン」は、サーチュイン(長寿遺伝子)やAMPK(5' adenosine monophosphate-activated protein kinase:AMP活性化プロテインキナーゼ)などの体内酵素系の活性化をメカニズムとし、インスリンの感受性や糖代謝の改善が動物で複数報告されています。ヒトで実証し始めれば、加齢性肥満の抑制などへの期待が高まります。
Modulatory effects of diosgenin on attenuating the key enzymes activities of carbohydrate metabolism and glycogen content in streptozotocin-induced diabetic rats. Can J Diabetes. 2014 Dec;38(6):409-14.
Efficacy of natural diosgenin on cardiovascular risk, insulin secretion, and beta cells in streptozotocin (STZ)-induced diabetic rats. Phytomedicine. 2014 Sep 15;21(10):1154-61.
Acute administration of diosgenin or dioscorea improves hyperglycemia with increases muscular steroidogenesis in STZ-induced type 1 diabetic rats. J Steroid Biochem Mol Biol. 2014 Sep:143:152-159.
■筋力・骨 強化
「ジオスゲニン」ならびにジオスゲニン配糖体を含む山芋類(トゲドコロなど)は、動物試験で筋肉ステロイド産生増加や骨格への影響など、ステロイド系サポゲニン特有の機能性が報告されています。また、DHEAは、アスリートの体組成や運動パフォーマンスに関連する重要なホルモンでもあり、「ジオスゲニン」の摂取で、運動機能の向上が期待できます。
アスリートのトゲドコロ摂取がレジスタンストレーニングによる筋量・筋力に及ぼす影響, 日本スポーツ栄養研究誌 2018 11: 120 Effect of diosgenin, a steroidal sapogenin, on the rat skeletal system. Acta Biochim Pol. 2016;63(2):287-95.
陸上短距離アスリート15名に対して、一日あたり「ジオスゲニン」として20mgの摂取を8週間レジスタンス運動と併用した効果を調査した結果、血中DHEA量が通常のトレーニングよりもさらに増大し、筋量や筋力の増加を効果的に引き起こすという報告が示されています。
■更年期の肌質改善
「ジオスゲニン」を摂取することで、性ホルモンであるエストロゲンの産生量が高まり、更年期障害改善作用が期待されています。更年期を迎えた女性の身体はエストロゲンの分泌量が減少し、体内環境の劇的な変化に悩まされる人が多くみられます。皮膚においては、表皮層が薄くなり、シワの形成が増加するなどの問題が発生します。 2007年に公開された「ジオスゲニン」摂取による更年期およびそれ以降の女性の肌質への効果についての評価試験では、45~60歳代の女性に「ジオスゲニン」を含む山芋抽出物を配合したドリンクを1ヶ月間飲み、試験前後の肌質を比較したアンケートの結果、山芋抽出物を配合したドリンクを飲用した多くの人が肌質の改善を実感したことが分かりました。
■認知機能の改善(βアミロイド分解)
アルツハイマー病の改善に結びつく「ジオスゲニン」の認知機能改善効果に対する作用機序を解明した動物試験は、血流を改善するなど一時的な改善ではなく、神経細胞の損傷を予防・回復(修復)させるという今までとは異なる改善機構が示されています。今後再生医療の領域で、根本的な回復効果が期待されています。
Diosgenin is an exogenous activator of 1,25D3-MARRS Pdia3 ERp57 and improves Alzheimer's disease pathologies in 5XFAD mice. (Sci Rep. 2012:2:535.)
「ジオスゲニン」は、神経細胞の情報伝達を担っている軸索や前シナプスの変性を改善することが報告されています。そして、活性型ビタミンD3(ジヒドロキシビタミンD3)の受容体である1,25D3-MARRSを介して、軸索の変性を改善させている作用メカニズムが発見されています。
2017年には2012年の研究報告に基づいた機能性評価のヒト臨床試験が行われ、一日あたり「ジオスゲニン」として8mgを健常人に対して12週間摂取させ、日本語版神経心理検査(RBANS)などを評価した結果、RBANSのトータルスコアで顕著な有意差が示され、ヒトでも認知機能の改善効果が示されています。
Diosgenin-Rich Yam Extract Enhances Cognitive Function: A Placebo-Controlled, Randomized, Double-Blind, Crossover Study of Healthy Adults. Nutrients. (2017;9(10). pii: E1160.)
トータルスコアは全て大幅に増加、とくに60歳以上の高齢者でグループ分けした場合には、大幅な改善が認められた。
■その他の研究報告と今後の可能性
抗ストレス作用・乳酸菌の増殖プレバイオティクス効果・成長ホルモン分泌促進作用・ED/PDE5(ホスホジエステラーゼ5)阻害作用・抗ウイルス作用、関節炎や骨粗しょう症への効果の研究も報告されています。さらに、「ジオスゲニン」は、オートファジーの活性化、さらにアポトーシス誘導作用を示す報告が多くなされています。
Nie C, Zhou J, Qin X, Shi X, Zeng Q, Liu J, Yan S, Zhang L.: Diosgenin-induced autophagy and apoptosis in a human prostate cancer cell line. Mol Med Rep. 2016;14(5):4349-4359.
Jiang S, Fan J, Wang Q, Ju D, Feng M, Li J, Guan ZB, An D, Wang X, Ye L. : Diosgenin induces ROS-dependent autophagy and cytotoxicity via mTOR signaling pathway in chronic myeloid leukemia cells. Phytomedicine. 2016;23(3):243-52.
現在、オートファジー活性化やアポトーシス誘導作用から派生した研究が、懐山芋の原産国である中国を中心に数多く行われています。「ジオスゲニン」が活性型ビタミンD3の受容体を介して、軸索の変性を改善する効果が明らかになったことから、今後、免疫領域や細胞再生領域など、様々な作用が明らかになっていくことが期待されています。