ファームグランピング京都天橋立

当サイトがメインテーマに掲げている食育。そのあり方が時代とともに移り変わり、グランピングにも取り入れられるようになりました。日本初の「食育グランピング」を始めたマリントピアリゾートの坂根正生さんに、意図や目的などを聞きました。

ファームグランピング京都天橋立

京都丹後エリアで複数の宿泊施設を展開しているマリントピアリゾートが手がけた、食育をテーマに置く新しいタイプのグランピング施設。健全な食生活を実践できる力を育むためのさまざまなプログラムを用意。収穫体験や料理体験、四季を感じられる地域の料理を味わうことで食に関する知識を深め、バランスの良い食を選択する力を身につけることができる。子どもだけでなく大人に向けた食育にも力を注いでいる。

京都府宮津市難波野397-13
0772-45-1073
https://www.farm-glamping.com/

キャンプ初心者も楽しめるグランピング

眼下に宮津湾が広がる静かなロケーションが魅力のファームグランピング京都天橋立。パノラマビューに癒やされます。

数年前から新しいアウトドアの形としてブームになっているグランピング。グランピングとはグラマラスとキャンピングの2つの言葉から生まれた造語です。これまでアウトドアと言えばオートキャンプ場に自分たちでテントを張って寝泊まりしたり、機材や食材を一から準備したりするバーベキューなどが主流でしたが、近年は劇的に進化。快適性に高級感やリゾート性をプラスしたグランピングがうけています。

自然豊かな場所に設備の整ったテント風施設や鉄筋コンクリートのしっかりとした建物を完備した施設で、風の心地よさや草木の香りに癒されながら、非日常を体感できるのが魅力。道具一式を買いそろえる手間がなく、アウトドア経験のない人やキャンプが苦手な人も気軽に楽しめるのが人気の理由です。

ファームグランピング京都天橋立は2019年6月にオープンしたばかりのグランピング施設。全国に続々と新施設が誕生している中でも「食育」をテーマにし、他とは一線を画すアウトドアを体験できるスポットです。

アウトドアとは思えない充実のサービス

快適さを追求したドームテント内。テントの一部はスケルトン仕様になっており、昼夜問わず絶景を眺めることができます。(上)各プライベートスペースにはデッキがあり、レンタル機材や地元の食材を用いてバーベキューが楽しめます。(下)

ファームグランピング京都天橋立があるのは京都府宮津市の日置と呼ばれるエリアです。舟屋の町として知られる伊根町と、京都を代表する観光地の一つ天橋立の間に位置する風光明媚な場所。宮津湾に面していることから日本海特有の荒波が立たず海は穏やか。水平線から昇る朝日の美しさに目を奪われます。

施設は小高い丘の上にあり、真っ白なドーム型のテントが並んでいます。キャンプで一般的な簡易テントとは違い、強い風雨にも耐えられる頑丈な造り。天井も高く開放感があります。室内はソファやベッドなど凝ったインテリアが配され、テントの中とは思えないほどおしゃれな雰囲気。室内は優れた断熱性を誇り冷暖房も完備しているため、酷暑の夏や底冷えのする冬も快適に過ごせます。さらにアメニティーや部屋着が用意され、手ぶらで訪れても安心。簡易洗面台や清潔感の漂う風呂・トイレもあり、包丁やまな板、食器や基本的な調味料も用意されるなど至れり尽くせり。行き届いたホスピタリティーに驚かされます。


記憶に刻まれる体験を通し、食を学ぶ

自社農園では季節ごとにさまざまな野菜が実ります。収穫体験は人気の高いコンテンツの一つ。

ファームグランピング京都天橋立の魅力の一つは、宿泊者が自社農園で収穫体験ができること。施設の近くには畑があり、農業専門のスタッフが日々熱心に管理を行っています。「お客様が口にするものは安全でなければいけない」と、可能な限り減農薬で栽培。キュウリやピーマン、ナス、オクラ、ミニトマトなど、四季を通して多種多彩な農作物が実ります。冬から春にかけてはイチゴの最盛期。12〜3棟ものビニールハウスで色づく3種類の甘酸っぱい果実を目当てに、子ども連れの家族やカップルなどでにぎわいます。

収穫した野菜やフルーツは管理棟に持ち帰り、自分たちの手で調理をして食べることができます。掘りたてのジャガイモは薄くスライスして手作りのポテトチップスに。葉物野菜をちぎって盛ったサラダは、みずみずしく皿からはみ出さんばかり。色鮮やかなピーマンやトウモロコシなどはピザ生地の上にトッピングして焼き上げ、アツアツを頬張ると思わず笑みがこぼれます。肥沃な大地と太陽からたっぷりとエネルギーをもらった野菜は、どれもくっきりと味が濃く、ひときわ高い香りを放っています。

「ちょっとリッチなキャンプというグランピング本来のコンセプトは大切にしながらも、せっかく遠くまで足を運んでくださったお客様には、この地でしかできない“コト”を体験してほしいというのが私たちの思いです」と話すのは、マリントピアリゾートの坂根正生さん。食育グランピングの仕掛け人です。

大人向けの食育プログラムも人気

収穫体験では五感をフル活用。とれたてのおいしさに誰もが笑顔になります。(上)4月末まではイチゴ狩りが真っ盛り。自分で摘んだ赤・白・ピンクのイチゴの食べ比べは都会では贅沢な体験です。(下)

食育グランピングのアクティビティは、子ども向けのものばかりではありません。ファームグランピング京都天橋立では「大人になってからも食育は大切」という考えのもと、大人が楽しみながら食と向き合えるコンテンツも用意されています。中でも食に関心のある20〜40代から人気を集めているのが「薪グランピングプラン」です。吹く風に冷たさが感じられる季節になると、ドームテントの外にあるバーベキュースペースに薪ストーブが登場。薪ストーブの炎を操り、地元でとれた魚や自家菜園の野菜など新鮮な食材を使って、宿泊者らが調理をするというユニークなものです。旬の野菜をたっぷりと加えたカレーを煮込んだり、ローストビーフを焼いたりと、品数は8〜9種類。食材を切るところから始め、すべてのメニューを完成させるまでに2時間はかかりますが、日常ではなかなかできない体験に夢中になる人が多いそう。

バラエティに富んだメニューの中でも、「地魚の藁焼き」はこの地でしか味わえないごちそうです。冬は脂ののった伊根ブリを串にさして炙り、スタッフ特製の燻製醤油や塩などをかけて食べると、豊かなうま味と香りが口内に広がります。もっと地域の味を探求したい人は素泊まりを選び、調理機材をレンタル。好きな食材を現地で調達し調理することも可能です。子どもも大人も五感で食を捉えることを楽しめてこそ、本来の食育だと坂根さんは言います。

「私たちが大事にしているのは、体を通して得られる食の経験です。一流のシェフが手を加えた料理は確かにおいしいですが、それらを食べることはどこでも経験できます。豊かな自然に囲まれたこの地ならではの食材の魅力をより深く知ってもらうためには、手で触れてもらってこそだと、知恵を絞って生まれたのが食育グランピングです。薪グランピングプランではお客様たちだけで料理を作っていただくので、失敗してしまうこともありますが、それもまたここでしかできない食の経験と捉えてもらえると嬉しいですね」。


リゾート開発で地方過疎化に歯止め

揚げたてポテトチップスは最高のおやつ。日常ではなかなかできない特別な食の経験として記憶に刻まれます。

ファームグランピング京都天橋立を運営するマリントピアリゾートは「株式会社にしがき」を親会社とし、長年にわたり北近畿エリアで地域密着のスーパーマーケット「NISHIGAKI」を展開してきました。現在も京都府京丹後市や兵庫県豊岡市などに24店舗を構えています。しかし人口減少や高齢化が著しく進む地方では、サービスを続けることが難しくなり、閉店に追い込まれるスーパーマーケットが多発。NISHIGAKIも例外ではなく、苦境に立たされています。

「地方のスーパーの衰退は歯止めがかからない状況です。当社もやむなく数店舗を閉めましたが、いざ閉店するとなると地域にとっては死活問題。行政からも閉めないでと言われますが、補助金などのサポートが受けられるのかというと別問題です。みなさんの声に応えられるよう、移動スーパーの導入検討など、日々試行錯誤しております」。
そんななか、同社が新たな一手として乗り出したのがリゾート開発事業でした。当時ブームになりつつあったグランピングに着目し、食に携わってきた自社の強みやオリジナリティーを模索した先に見えたのが、食育というキーワード。そして、京都丹後エリアに食育をテーマにしたグランピング施設の第1号として、グランドーム京都天橋立が誕生しました。

「地方の過疎化問題を救うのは観光がひとつの鍵だと私たちは考えています。兵庫県の人気観光地である城崎温泉と天橋立周辺の一人当たりの観光消費額を比較すると、城崎はおよそ1万円であるのに対して天橋立は3000円程度。この金額の差は、宿が圧倒的に少ないために滞在時間が減ってしまうことが一つの理由です。そこで、宿を増やそうという取り組みに当社が乗り出したのが4年前のこと。一人でも多くの人に足を運んでいただいて地域の魅力を感じてもらい、地域創生に貢献することも当社の使命だと思っています」。

広く食育の重要性を伝えていきたい

薪グランピングは好評のプラン。特に食に関心の高い人には「おもしろい」と好評だそう。

また、坂根さんが抱いていた疑問も食育グランピングをスタートさせるきっかけとなりました。「私は家族と大阪に住み、息子は幼い頃からポテトチップスをよく食べていました。その姿を見て、都会で育つわが子はポテトチップスが何からできているのか知っているのかな、食べ物が口に運ばれるまでのストーリーを知る機会があるのかな、と頭をよぎったことがあって。今の子どもたちや若い世代は、食材について深く知らない人が多いように思うんです」。

天橋立周辺で育った同社で働く20代のスタッフも、漁場が身近にあるにも関わらず刺身になった魚の種類を答えられるものは少ないと言い、食に対する興味が薄いと坂根さんは嘆きます。「私は今30代で、天橋立の近くで生まれ育ちましたが、春になると田植え、秋になれば稲刈りを手伝い、行事で芋掘りをしたりと、幼いころから体験を通して食を知る機会に恵まれました。

当社はグランピングを始める前からすでに高級旅館や飲食店の経営に着手していましたが、料理人が調理した料理で、食材それぞれが持つ魅力を伝えたいという私たちの思いがきちんと表現できているのだろうかと不安に思うこともありました。新しい味を知ることや食への興味を深めることは、本来楽しくておもしろいこと。広くこの真意を伝えるためにも、食育グランピングは重要なのではないかと感じています」。


食育グランピングを次のステージに

薪ストーブを使って調理すると、食材そのもののうま味をダイレクトに味わえます。藁や薪の芳しい香りが食材に移り、一層リッチな味わいに。

坂根さんは今後も食育グランピングを突き詰め、いずれは食の経験値をより一層高められる一大リゾートに発展させていきたいと、未来を見つめます。
「私たちにできることは、これからも変わらずお客様においしい食を提供していくこと。その点では、当社がフィールドとしている天橋立周辺は上質な山海の幸に恵まれ、他の地域よりアドバンテージがあると自信を持っています。おかげさまでリピーターが多く、お客様にも魅力を感じていただいていると実感していますが、だからといって現状に甘んじることなく、飽きがこないようオリジナリティーを高めていかないといけないでしょう。次に新しくオープンするグランピング施設は滋賀県を予定地にしています。地域で古くから親しまれてきた琵琶湖八珍(ニゴロブナ、ホンモロコ、ビワマスなど湖の幸を代表する8種類の魚介)を目玉にしたいと、いろいろと知恵を絞っているところです」。

また、食育というキーワードを研磨すれば、もっと上を目指せるはずと坂根さんは続けます。鮮度や素材のポテンシャルに頼るばかりではなく、必ず次の新たなステップがあるはずだと。
「和食や洋食、中華などのジャンルにとらわれることなく新しい食の形を提案し、お客様をあっと驚かせたいですね」。

今後の展開にも期待が高まります。

(2020年1月 取材・文 岸本 恭児)