鈴木商店

おしゃれなスイーツがあふれる神戸の街に、昭和22年から愛されているアイスキャンデーがあります。さっぱりとしたミルクの口どけが懐かしい地元っ子のおやつ。変わらない人気の理由とおいしさの秘密を聞きました。

斜めに刺さった棒が特長的な鈴木商店のアイスキャンデー。「棒がまっすぐじゃない理由は私たちもわからへんけど、単に作業上の都合とちがうかなあ」(笑)

思い出のそばにあるひんやりおやつ

「ミルク、カルピス、バナナ、ミルク金時。今日はどれにしようかな」。プールから帰った後のお楽しみといえば鈴木商店のアイスキャンデー。扇風機の前を陣取って頬張ると、おだやかな甘さに思わずニンマリ。なんで棒が斜めに刺さってるんやろ?といつも不思議に思いながら、ぽろりとこぼれ落ちないように急いで食べたっけ。

それぞれの記憶に刻まれる味は今も変わらず70年。夏の最盛期には毎日仕込む1000本があっという間に売り切れるほど、人気ぶりも健在です。「イチゴだのパインだの、新しい味にチャレンジしたこともありました。でも結局、売れるんゆうたらこの4種類。もう先代が味を完成させているから、私らはこれ以上手の入れようがないんですよ」と店主は言います。

殺菌機が置かれた作業場と仕込みに必要な道具がコンパクトにまとまっています。画像下はアイスキャンデーを流し込む型。一度にできる数は190本が限界。機械化せず手作業で行っています。

“辛いときもお客さんの声に励まされて

戦後、先代が店を始めたころはラーメンが評判の食堂として街の人の胃袋を満たしていました。その当時からあったアイスキャンデーは、子どもからお年寄りまで愛されてきた下町のおやつです。ところが、阪神・淡路大震災で店の厨房が倒壊。再建は難しいと看板を下ろすことも考えたと言います。それでもお客さんたちからの「がんばって続けてや」の声に元気をもらい、せめてアイスキャンデーだけはと復活することに。先代亡き後は親戚家族でレシピと技を受け継いでいます。

材料はシンプルに粉乳、砂糖、練乳がベース。殺菌機で一度沸騰させ水で冷やしてから、ステンレス製の型に流し込み一気に固めていきます。ミルク金時に使う小豆も自家製。北海道産のものを鍋で炊き上げ、ミルクに合うよう甘さを加減しています。

夏は朝の5時半から製造を始め、16時の閉店間際まで機械も人もフル回転。作業場は機械の熱でクーラーも利かず、40度近くになる日もあります。そんな中、アイスキャンデーを溶かさず1本1本に手早く包み紙を巻いていくのは至難の業。熟練の手があってこそです。

アイスキャンデーの包み紙をはがしやすくするため、食べる前にほんの少し手で温めるのがコツ。まとめ買いのアイスキャンデーは新聞紙で包装。ささっと包んでビニール袋に入れお客さんの元へ。

昔ながらの味を変えないことが役目

のぼりを出したらオープンの合図。待ってましたとばかりにお客さんたちがどっと押し寄せます。1本80円か120円という買いやすい値段につい財布のひもが緩み、20本、30本とまとめ買いしていく人も。新聞紙2枚でくるくると巻くのは保冷剤の代わり。「アイス同士が冷たさを補い合って30分ほどは持つんですよ」。これも先代から引き継いだ商売の知恵だそう。 手作りでできる量にこだわり、フレッシュな味を届けたいと作り置きをせず、インターネット販売や地方発送もなし。無理のない商売と頑ななポリシーが長く続けていくためには必要だとも。

「帰省のたびに買いに来てくれる人がいたり、これが神戸の味やと言うてくれる人がいたり。お客さんはみんな昔からの味を知っているからね。何も変えていないことが今も愛されている秘訣なんやないかと思います」。 暑さが増すこれからの季節、夕方には完売必至。事前に電話確認してからの来店がおすすめです。

鈴木商店のおすすめ

アイスキャンデー

ノスタルジックなパッケージが新鮮。小ぶりなので一度に何本も食べるという常連さんも多いとか。

ソフトクリーム

アイスキャンデーと人気を二分するソフトクリーム。取材に訪れた日も飛ぶように売れていました。

もなか

ソフトクリームを持ち帰りしやすいようにと考えられたもなか。中身はソフトクリームを冷やし固めたもの。

DATA:

鈴木商店

兵庫県神戸市東灘区田中町3-1-1

TEL 078-431-5744

営業時間 10:00~16:00

定休日 火曜・水曜日

鈴木商店 からのメッセージ

先代から愛されてきた味をこれからも私たちのできるかぎりで守っていくつもりです。神戸を訪れた際にはぜひ、昔懐かしいアイスキャンデーやソフトクリームをご賞味ください。

【取材レポート】
現在店を守る親戚のみなさんは、鈴木商店が食堂のころからずっと手伝いをしていたそう。「小さい時から商売を見てきたから、私らが継ぐのが当たり前やと思っていたし、特に抵抗はなかったんですよ」。道具も昔のまま。これで水を測っていると見せてくれたのは、かなり年季の入った炊飯器の内がま。「先代が使っていたもので私らの代になっても変えることはありません。今ある道具がなくなったら仕込むのに困るかもしれませんね」(笑)。やさしい甘さの奥には、ほっこりさせられるエピソードがいくつもありました。