ローカーボキッチン然(ぜん)

夏、真っ盛り。Tシャツからのぞく二の腕やぽっこりお腹が気になり、茶碗に盛るごはんの量を少なくしたり、うどんやパンを口にする回数を減らしたり。自分なりのルールで低糖質生活を行っている人もいるのでは。でも、二の腕もお腹も相変わらず。はっきりとした効果を実感できずにやきもきしているなら、実は方法が間違っているのかも。
低糖質料理専門店で、「正しい糖質制限」について聞きました。

ローカーボキッチン然(ぜん)

ダイエットやボディメイク、健康維持などのために糖質制限を行う人をサポートするレストラン。薬剤師であるオーナーがプロテュースを手がけ、2016年に誕生した大阪・北堀江店に続き、今年高槻店がオープンした。大人1人の1日分の糖質摂取量を50g以下と想定し、提供するすべての料理やドリンクに「糖質7g以下」という厳しい基準を設定。「おいしい低糖質食」をテーマに、オリジナルレシピの研究にも余念がない。

大阪府大阪市西区北堀江1−6−4欧州館2F(北堀江店)
080−2518−9678
http://locabo-kitchen.jp

「見た目は普通」の低糖質料理

メニュー表を見れば、普通のレストランと同じような料理が並んでいます。どの皿も色鮮やかで、一見すると低糖質食だとわかりません。

「自己流で糖質制限をしているけれどなかなか痩せないとか、実践したいけれど何を食べていいのかわからないとか。低糖質食はあまりおいしくないと聞くけれど実際どうなの?と疑問に思って来られるお客様も多いですね」

そう話すのは、「ローカーボキッチン然」北堀江店の店長を務める片山仁美さん。同店は低糖質食専門のレストラン。メニューを開くと、肉や野菜だけでなく、パスタやパン、米、スイーツまで色とりどりに並び、見た目は普通の料理と変わりありません。けれども、一品ずつに記された糖質量を見てびっくり。カルボナーラで3.4g、パン1個が1.9g。パスタとスイーツが付くコース料理を食べてもトータル15g以下。どれもしっかりとした味付けで食べ応えも満点だというから、驚きはなおのこと。

「当店をプロデュースしているオーナーは薬剤師。健康維持やダイエットのために低糖質食を実践している人や糖質制限の必要な病気を抱えた人が、家族や友人とおいしい料理や楽しい時間を分かち合えるようにとの思いから、店をスタートさせました。全品糖質量7g以下という厳しい基準のもと、レシピを考案しています」

片山さん自身もダイエットのためにジムに通ったことをきっかけに、糖質制限を3〜4年続けています。
「ジムでは日々の食生活についてトレーナーがアドバイスしてくれるので、多少きつくてもがんばれました。でも自分一人で継続するとなると難しいですね。トレーナーから離れた途端に自分に甘くなり、我慢していた反動で好きなものをガンガン食べました」
トレーニングを重ねた成果をキープするために、やはり大事なのは食事。毎日の食事が楽しくおいしいものでなければ、どんなダイエットも継続しないことを痛感したと言います。


天然由来の甘味料で糖質調整

ステビアを使った低糖質スイーツ。生クリームは高脂肪なものを使いリッチな味わいに仕上がっています。

低糖質食のマイナスイメージを払拭するために、同店が一番気を配っているのは「味」です。片山さんは前職で食品添加物を扱う会社に勤務していた知識と経験を生かし、店で使う調味料を厳選しています。料理の味付けには、食品添加物を上手に利用することも一案だそう。

「食品添加物は人工のものばかりではありません。体にやさしい天然のものもあり、当店では天然にこだわって使っています。一般によく知られているのが、植物由来の甘味料であるステビアや果物由来の甘味料のラカンカ。料理やスイーツに使う甘味はすべてこの2種類を使い分けています。日本では食品表示ラベルに『甘味料(ステビア)』と書かれているので人工のものと勘違いされやすいのですが、海外では天然の食品添加物として広く認識されています。ステビアやラカンカは砂糖と比べると穏やかな甘さ。食べても血糖値にまったく影響を与えないという特徴があります」

最近は精製技術も上がり特有のクセを感じにくくなっているため、料理の味を損ねません。同店のスイーツは地元のパティスリーに製造を委託。甘みにステビアやラカンカを使用し、使用する小麦粉の大半を大豆粉で代用することで、チーズケーキやロールケーキ1個の糖質を大幅に抑えています。味わいは一般のケーキと同じ。チーズケーキは濃厚で、ロールケーキもふわふわの食感が自慢です。

「糖質制限中も甘いものを食べたいときには、チーズケーキを選ぶのがおすすめ。脂質の高い食べ物ほど低糖質です。覚えておくと外食時に便利ですよ」

馴染みの調味料が落とし穴

大豆粉で作られたパン。香ばしい香りともちもちとした食感で、他の低糖質パンより食べやすいと好評です(画像上)。ヘルシー志向の人に人気が高いグラスフェッドビーフ。国産和牛より脂身が少なく、さっぱりとしているのが特長です(画像下)。

同店を訪れたお客さんたちが目を丸くするのが、メニューの中にパンや米、麺類が当たり前のように載っていること。通常は糖質制限を進める上で、最も控えるべき食品とされているはずですが…。

「実は市販の糖質オフや糖質ゼロの食材を積極的に採用しています。最近は食品メーカーがこぞって開発し、アイテム数も増えてきています。当店ではみりん、料理酒、穀物酢はすべて糖質ゼロのものを使っていますが、味も一般の調味料と変わりありません。スーパーに売っている調味料は食品表示を細かくチェックしてみると、糖質のある・なしが見えます。安い調味料の中には小麦粉が含まれているものもあるので要注意。ちなみに醤油は濃口より薄口のほうが低糖質です」

こうした調味料を駆使して、シンプルながら飽きない味を提供しています。
「たとえば肉料理は、甘辛いタレを付けると糖質が高くなるので、いろんな味の塩や市販の低糖質ポン酢などを添え、楽しみながら召し上がっていただきます。当店で使っているポン酢は、糖質だけでなく塩分も控えめにしてあり、しっかりとした味わいで人気。肉自体もオーストラリア産のグラスフェッドビーフ(牧草を食べて育った脂肪が少ない肉)を使用し、体に配慮しています。以前使っていた黒毛和牛より脂があっさりしていてヘルシー。価格も手ごろなのでお客様にも好評です」


から揚げも山盛り食べられる

人気メニューの一つである鶏のから揚げ。調理方法を工夫し低糖質を実現。安心して食べられるようになっています(画像上)。手間暇をかけて作っているアヒージョ。ニンニクオイルの豊かな香りが食欲をそそります(画像下)。

糖質の高い鶏のから揚げやアヒージョも、お客さんに安心して食べてもらえるよう調理を工夫しています。おいしさをキープしながら糖質カットを叶える秘訣を教えてもらいました。

「当店のから揚げは食物繊維を粉にしたものを衣にして揚げています。糖質を低く抑えるだけでなく、食物繊維の効果で消化吸収されにくいという利点があります。メニューに載っているから揚げは200gもありますが糖質は1.9g。衣を剥がさなくても心置きなく食べてもらえます。普段糖質を取っている人が個人で低糖質食を実践すると、どうしても食物繊維不足になってしまうため、いろんなメニューに食物繊維を取り入れることも心がけています」

アヒージョはニンニクがネック。糖質が高い食材の一つですが、丁寧な調理法でお客さんの要望に答えています。

「オリーブオイルにニンニクを加え、弱火で半日じっくりと油に香りを移した後にニンニクを取り出します。糖質は油に溶けないので、ニンニクの香りだけが付いた芳醇なオイルに仕上がります。アヒージョに添えるパンは大豆が原材料。パサパサした食感をイメージされるかもしれませんが、高性能のトースターで焼くと、外はカリッとしていて中はふわふわもちもち。もちろん低糖質なので、ニンニクオイルにたっぷり浸しても罪悪感はありません」

片山さんがイチオシの、家庭でも実践しやすいメニューがいなり餃子です。餃子の皮の代わりに油揚げを用意し、タネを包んで焼いたもので、サクサクとした歯ごたえと香ばしさがクセになります。ゆずポン酢でさっぱりとした味わいをプラスすると、暑い日でも食が進みます。

麺や米、酒も我慢せずに代用食を

濃厚なカルボナーラが女性の一番人気。もちもちとしたこんにゃく麺がソースとよく絡みます(画像上)。男性から好評のこんにゃく米のチャーハン。白米でも難しいパラパラの食感が簡単に出せて便利だそう(画像下)。

糖質制限を続ける上で、大きなハードルとなるのが麺や米です。同店では、お客さんが満足できる料理を模索。2種類の麺を使用し、具材や調理法によって使い分けています。

1つはおからが入ったオリジナルのこんにゃく麺。おからの効果で食感がよりパスタに近くなります。カルボナーラなど濃厚なクリーム系のソースはこんにゃく麺とよく絡み、相性は抜群。女性に人気です。もう1つは豆腐麺。こんにゃく麺が苦手な人におすすめで、焼きそばなど炒める料理に向いています。また、こんにゃく米を使ったリゾットやチャーハンは男性に好評。こんにゃく米はこんにゃくを米の形に加工したものですが、炒めると米をパラパラにしたような仕上がりになり、煮ると独特なプルプルとした食感がやみつきになります。小麦粉で作ったパスタやうどん、白米は食べられなくても、代用食は探せば見つかります。味付けや調理を工夫するのも、低糖質生活を送る中での楽しみにしてしまえば長続きしそうです。

おいしい料理があれば酒もすすむもの。同店ではドリンクもワイン以外は糖質ゼロのものを揃えています。ワインも辛口のものなら糖質が低く、ほどほどに飲むなら問題はないと片山さん。

「スパークリングよりも白、白よりも赤がおすすめ。白を飲むなら辛口、赤はフルボディタイプを選んでください。スパークリングはけっこう甘いものが多いので、白や赤に比べると糖質がやや高くなります。飲み過ぎには注意しましょう」


まずはごはんを減らすことから

白米を減らすことから無理なく低糖質生活をスタート。体調を見て、自分に合っていると感じたら継続を。

「糖質制限をやってみよう!」と思ったら、まずはごはんの量を見直してみましょう。少しずつ毎食の白米を減らすところからスタートするのが、無理なく始めるための第一歩。また、自分が食べているメニューを書き出し、個々の食材の糖質を調べてみるのも効果的。実際に摂取している糖質量を“見える化”すると、取りすぎをよりリアルに実感できます。その上で、栄養面を考えながら低糖質食品に置き換えていきます。

外食が続くときは、まず野菜から食べる「ベジタブルファースト」を実践したり、難消化性デキストリンが入ったお茶や特定保健用食品を摂取し、血糖値の急上昇を抑えるよう心がけましょう。

コツコツと正しい糖質制限を続けていると、少しずつ体調に変化が現れてきます。片山さんがジムでの運動と糖質制限を並行していたときは、3カ月で10kgの減量に成功したそうです。

「個人差はありますが、運動をしなくても糖質制限だけで十分体重は落ちます。体調の変化は1カ月もすれば何かしら実感できるでしょう。糖質制限に慣れてきて、精神的な辛さもなくなるのがちょうどこのころ。私の場合は食後の眠気がなくなり、イライラも解消されて肌の調子が良好になりました。疲れや空腹も感じにくくなり、燃費の良い体に生まれ変わったことが嬉しかったです。糖質を控えて体調が良い状態を一度でも経験すると、不調に敏感になるので、自分をいたわる気持ちも生まれます」

やりすぎはかえって健康を蝕む

ボリュームたっぷりのコース料理。お腹いっぱい食べても糖質は15g以下というから安心です。

ただし、ストイックになりすぎると心身にダメージを与えてしまうことも。糖質制限と一緒にカロリー制限も行うと、もっと効率良く痩せられるのではと思いがちですが、そこには落とし穴があります。

「糖質制限とカロリー制限の同時進行は、体がエネルギーをどこからも取れない状態に陥り、何をするにも元気が湧いてこなくなります。健康的な心身を維持しながら無理なく痩せたい人は、食べ物に制約が少ない糖質制限のほうをおすすめします。糖質制限をするならカロリーは気にせずしっかりと取ること。特にエネルギーの元となる脂質とタンパク質は意識して摂取しましょう」

糖質制限で体調が悪くなったり痩せないという人は、誤った方法で続けていることもあります。たとえば油。太ると思い込み、控えているなら誤解です。適度に良質な油を取ることは、健やかな体づくりのカギ。
「葉物野菜と蒸し鶏だけの過剰な糖質制限をしている人もいますが、爪や肌がガサガサになってしまい、健康的とは言えません」

一方で、知らないうちに糖質を取ってしまっていることもあるとか。その一例がはるさめです。低カロリーではあるものの、実は糖質が高い食材。低カロリーと低糖質は等しいとは限りません。大根やニンジンなどの根菜類も同様に高糖質。過剰な摂取は糖質制限の妨げになります。栄養士など専門家から話を聞いたり本で情報を得て、栄養面に気を配りながら正しい知識をもって行い、継続することが大事です。

「糖質は決して悪者ではありません。けれども頼りすぎると栄養が偏ってしまいます。毎日の食事に少し気を配ると、ずいぶんと体は良い方向に変わってきます。そのすばらしさを私たちがどんどん発信し、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています」

(2019年5月 取材・文 岸本 恭児)